2013-08-11

【週俳7月の俳句を読む】距離感 五十嵐義知

【週俳7月の俳句を読む】
距離感

五十嵐義知


冷酒や亜流に生きて心地好し  小野富美子

物事の第一人者としてではなく、そこに携わる、またはその周辺でそれなりに過ごしてきた。
脚光を浴びることのない生き方だったかもしれないが、冷酒がすべてを洗い流してくれたのであろうか、それもまた良しとした。
「亜流に生きて心地好し」と言い切る潔さが、なんとも心地好く、冷酒が心地好さを増幅させている。

ポケットに入らぬポケット版薄暑  小野富美子

ポケットに入らないポケット版。
薄暑はまさに、季節というポケットに入りきらなくなった暑さが噴出してしまったかのようである。

色深くなるまで雨の額の花  小野富美子

紫陽花の色は雨によって深くなる。
雨の色素を蓄積するかのような紫陽花の深い青色が思い描かれる。

麦酒飲むまた王冠を叩く癖  小野富美子

王冠を叩くときの小気味のいい音。
ビール瓶を冷蔵庫から取り出す音、王冠を叩く音、栓を叩く音、グラスに注ぐ音、瓶とグラスが触れる音。
これらの音が連なり、「麦酒飲む」へとつながるのである。
作者の癖かもしれないが、カウンターの中にいる人物の癖かもしれない。
いずれにしても一連の光景が如実に想起される。



第324号 2013年7月7日
マイマイ ハッピーアイスクリーム 10句 ≫読む

第325号 2013年7月14日
小野富美子 亜流 10句 ≫読む
岸本尚毅 ちよび髭 10句 ≫読む

第326号 2013年7月21日
藤 幹子 やまをり線 10句 ≫読む
ぺぺ女 遠 泳 11句 ≫読む

第327号2013年7月28日
鳥居真里子 玉虫色 10句 ≫読む
ことり わが舟 10句 ≫読む

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