2009-03-01

〔週俳2月の俳句を読む〕五十嵐秀彦 シオン賢者の偽書

〔週俳2月の俳句を読む〕
五十嵐秀彦
シオン賢者の偽書



関悦史さんの「60億本の回転する曲がった棒」十句を読んで、ぼくとしては珍しく作者の年齢が気になったのです。
プロフィールを見ると、今年40歳になるようで、若くもないし中年というのもまだ早いかな、という中途半端(失礼)な齢の方のようですね。

なんで年齢が気になったのかなぁ。

 プラハにカフカの何からなにまでを知りし笑ひ  関悦史

 ネット社会をも閉ぢ込めて『城』未完なれ

 カフカかの虫の遊びをせむといふ

カフカのモチーフが、そのものずばりの句も含めて、全体を流れているのです。
そして、ツェランが登場する。

 流れゆくツェランの靴の黒ゆたけし   関悦史

あ~、やっぱりツェランの靴はセーヌ川を流れているわけだ、なんて思うのです。
そういえば、カフカもパウル・ツェランもユダヤ人でした。
カフカは幸か不幸か、ナチのホロコーストの前に病死したけれど、ツェランはもろに巻きこまれてゲットー送りとなり、なんとか生き延びた後はフランスに亡命したんでしたね。
最後はセーヌに身を投げて死んだ。
だからツェランの靴がセーヌ川をゴミのように流れているのでしょう。
生涯に暗いイメージのつきまとうシュールレアリスム詩人だったのですが、文学的にはカフカと非常に近いイメージがあります。

そして

 グローバリズムなるゴーレムも春の土    関悦史

となって、ここにゴーレムが登場するに至ると、もはやこれはユダヤ連作の様相を呈しているわけで、どこかしら秘儀的匂いもしてきます。
この一連のイメージは、1970年代あたりの文化(当時の学生の興味対象)を連想させるものだから、冒頭にも言ったように作者の年齢が気になってしまったのかもしれません。

これはある種のノスタルジアなのか、それともシュールレアリスムの復権を狙っているのか、あれこれ考えちゃいました。
その意味では、面白い十句でした。
ただ、この連作が示す時代の不安感は、想定内のイメージで、あまりインパクトはないようです。
「グローバリズムなるゴーレム」がユダヤ資本のアレゴリーであるとすれば興ざめですが、ま、それはないかな。


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