2010-09-12

【週俳8月の俳句を読む】青島玄武

【週俳8月の俳句を読む】
青島玄武
ムズムズするよ。難しいよ。


韓流ブームと言われて久しい昨今。ドラマや映画に限らず、最近はK-POPといって、韓国出身の歌手やアイドルの楽曲がブームになっている。そのなかには日本に進出して大ブレイクしている歌手やアイドルもいて、彼ら・彼女らの曲を耳にしない日はないといってもいい。

そのなかでも特に活躍が目覚ましいのは、5人組の女性KARA(カラ)であろう。2007年3月に4人組としてデビュー。その後、メンバーの脱退・加入があって、5人組となり、日本デビューは2010年8月。日本デビュー曲「ミスター」は、オリコン初登場5位にランクイン。その後も20位圏内にとどまっている。(9月4日現在)

なるほど、見事というしかないのだが、この売れに売れている「ミスター」の日本語版が、何回聴いても、わたくしの耳には「カッコ悪く」聴こえてしまうのだ。

むろん、韓国では韓国語版を歌っていて、動画サイトなどで検索すると観られるが、こちらのほうは実にすんなりと聴ける。その理由は分からない。K-POPの魅力のひとつに、韓国語の発音には促音や濁音が多く、もともと歯切れよくに聞こえるので、リズミカルな楽曲に合うのだそうだ。(NHK-BS『熱中スタジアム』2010年4月16日、23日放送分より)もしかしたら、そういう点が影響しているのかもしれない。

同じ曲で同じ振り付け。ただ、歌っている言語が違うというだけで、こんなにも聞こえ方が違うのかと唖然としている。

別に調べたわけでもなんでないのだが、日本語には日本語特有の旋律やリズム感があって、そこにはまらないとなると、苦味というかヤダ味がにじみ出すものなのだろうな、ということを感覚的に思っている。

日本のHip-Hopの全盛の土台を作ったといわれる、RHYMSTERの宇多丸氏はNHK教育「佐野元春のザ・ソングライターズ」に出演して、「日本語って、そもそもラップには向いてないと思うんですよ」と発言している。(NHK教育「佐野元春のザ・ソングライターズ」2010年8月28日放送分より)

彼らは日本語でラップの歌詞を作るとき、日本語の持つ旋律やリズム感というものを意識しているのだという。

自分も俳句を作る際、日本語を過信しすぎないようにしている。「俳句の韻律」というのを特に意識して作るようにし、「俳句」そのものに向き合うことにしている。

よく俳句の批評で「もっと詩性がほしい」といわれることがあるが、そんな大仰に言われても困る。自分は俳句を作っているつもりで、詩を作っているつもりはさらさらない。

また、「伝えたいことが分からない」ともいわれるが、そもそも日本語というもの自体が、何かを伝えるのに便利な言語ではないような気がする。外国人が日本語を習う時に、その独特のむず痒さに苦労するのだという。俳句はその点を最大限に利用したものだと感じている。

それこそ俳句で何かを伝えるというのは、路上詩人が色紙に「元気の出る言葉」をヘタうまな字で書いて、1枚いくらかで売るようなものだと思う。

君の悩みは君だけのものではないよ

これなら、

Your trouble is not a thing only for you

って、英語で書いてあったほうがもっと説得力あるような気がしないだろうか。

それは冗談として、日本語は本当に難しい。日本語に対して畏敬の念を忘れてはならないと思う。



冷房に蘂なき花の揺れどほし    岡田一実

蘂なき花。もしかして造花であろうか。わからないが、冷房とその花の位置は明確に分かる。でも、それ以外は全く分からない。そのわからなさこそが、この句の「花」である。そこからいかようにも想像力を巡らせれば、どんなドラマでも出来上がる。徹底的に無駄を省いた先にある、俳句独特の旨味。それがこの句にはある。


雨具脱ぎ即肌脱のひととなる    松本てふこ

フジロックフェスティバルは、新潟県湯沢町の苗場スキー場で行われる日本のロック・フェスティバルである。野外ライブでいつ雨が降るかわからない、しかも今年の猛暑となれば、素肌の上から雨具を着るのもなるほどと思う。その様子だけが記されているのに、フェスに臨むひとの気合と愉悦が伝わってくる。自分もフジロックには行きたいと思うのだが、熊本在住であるからなかなかそうもいかない。この句からはまさにその現場にいる臨場感が感じられる。また余計にその現場に行きたいと思った。


マンションが日蔭をつくる墓参   小豆澤裕子

静謐ながら興味深い句群。「マンションの日蔭の中の墓参」ではない。日中であるのに、暗がりにある墓地。辺りを観ると、そこには大きなビルがあったと気付いたのである。ちょっとしたことだが、大きなものの発見を記している。墓は代々変わらないが、周りはどんどん変わっていく。墓に向かう前にその感慨にひたる。無音の中の音楽というようなものを感じる句だ。


夏風邪や影の滴る弟と   小川楓子

「影の滴る」というフレーズにグッと惹かれた。弟はもしかしたら幻影なのかもしれない。その影も真っ黒というよりも、艶っぽく七色に輝く影。永遠に少年の姿の弟。言葉を持たぬその影は、夜昼問わずにあらわれて、何かを言いたげな雰囲気で消えてゆく。夏の暑さははただでさえ風邪でぼーっとする脳髄に拍車をかける。風邪が治ると弟も消えるのだろうか。または夏が終わらないと消えないのだろうか。それは分からない。もしかしたら、その弟というのは、自分から永遠に離れない少年時代の自分かもしれない。


みづうみは織女の鏡かもしれず    しなだしん

句全体を通して「うまいな~」というのが第一印象。とくにこの湖を、北海道にある摩周湖ではないかと勝手に思ってからはこの句に釘付けとなった。「織女」という扱いにくい季語をさらりと使い切るセンスには脱帽。夜中に星明りに煌めく湖を「織女の鏡」ととらえられるのは並大抵の実力では無理。「月に柄をさしたらばよき團かな 山崎宗鑑」のようなただの見立てだけでない、織女・牽牛の物語のスピンオフ的な情緒もある。見事。


煩悩のひとつは蘭鋳のかたち    たかぎちようこ

わたくしの雅号は「百八軒」という。自分の部屋が己の煩悩の赴くままにありとあらゆるものでぐちゃぐちゃに埋め尽くしてしまっているところから、その煩悩のすべてを固めた部屋ということで「百八軒」とした。自分では気づいていないのかもしれないが、おそらくこの部屋のどこかに蘭鋳が埋もれているかもしれない。いつお目にかかるかはわからないが……。


岡田一実 銀の粉 10句 ≫読む
松本てふこ フジロックみやげ 12句 ≫読む
小豆澤裕子 踏ん張る 10句 ≫読む
小川楓子 その窓に 10句 ≫読む
しなだしん なんとなく 10句 ≫読む
岡本飛び地 病室 10句 ≫読む
たかぎちようこ めし 10句 ≫読む
高山れおな 昨日の明日のレッスン 46句 ≫読む
〔ウラハイ〕
松本てふこ コミケに行ってきました 10句 ≫読む
藤幹子 あれを好く コミケ想望句群 10句 ≫読む
〔投句作品〕
湊 圭史 ギンセンカ 8句  ≫読む
すずきみのる げげげ 10句  ≫読む
俳句飯 秋より遠 5句 ≫読む

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