2011-11-06

〔週俳10月の俳句を読む〕藤本る衣

〔週俳10月の俳句を読む〕
誰かを掴まえる一つの言葉

藤本る衣


  ときをりの風のかたさよ吾亦紅  日下野由季

昏いたばこの火のような吾亦紅。自分の芯を少しもてあましている自分。
そんなときは 風がすこしだけ、かたいのだろうか。

  今日の月思ふところに上がりけり

女というもの、思うところに月を上げることができるのです。
とてもきれいな月なのです。なんとなく、恋の予感も感じさせて素敵な句。

  毬栗のふちに森の日あつまりぬ

毬栗に、ふちはありませんので 触れているまわりの土なのでしょう。
そう思うとスポットライトを浴びたかのように 毬栗のとげとげが存在感を持って迫る。海栗もよかったかなと 考えているかもしれない、毬栗がひとつ転がっています。

 

  星降る降る野淋しくなんかない野  かまちよしろう

旅先の公衆電話から でんわしている女の子。
「星降る…降るの淋しくなんかないの…」と。
うつくしい闇と星のなかのひとり。

  むげいの雑貨屋高橋商店おやじのエプロンすりきれたあ

ラップというよりも、ほんと秋田民謡。25文字が菅笠もって踊りだす。
近恵氏も言われるように「はちもりはたはたおおだてまげわっぱあ~」ノリで唄うように読んでみる。
上質な一コマ漫画をみているような句。扇風機の句をはじめ昭和の匂いがする20句だ。

そう言えば、さっきすれ違った旅鞄のひと、かまちよしろうさんに違いない。

 

夕暮れの海の映像をうつし、それにかぶせて、この十句を流してみたらどうだろう
ゆっくり流れる句群から、大切な言葉を拾ってみよう。

  草の穂やこはれたものはすてましょう  山口優夢

の句からは「こはれたもの」を。「すてませう」にしたい。

  とんぼうや瓦礫片づければ荒野

からは「荒野」を。                            

  でもぼくが逃げても逃げなくても月夜

からは「でも」を。

誰かにのこる一句というものは
その誰かを掴まえる一つの言葉を蔵しているもの。
静かで激しいこんな言葉を見つけていきたいと切に思う。
声高な、震災関連句でないところが とてもいい。

  コスモスが胞子のように伸びてゐし

「コスモス」の異名は「おおはるしゃぎく(大波斯菊)」
こんな偶然もある。



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