【週俳4月の俳句を読む】
立ち止まって
髙勢祥子
林檎酒ふふみて耳がよく通る 楢
"ふふ""みみ"と音のかわいい句。
お酒のせいで耳が通るというわけではないけれど、ゆっくり味わうという行為が味覚以外のからだの感覚も敏感にしているのだ。林檎酒という選択も丁寧に味わっている感じがあって、魅かれる。
白桃を剥くやじわりと指の冷え 西丘伊吹
桃は美味しいけれど剥くのはすんなりいかない。手がべとべとするし皮もふにっとなる。そんな桃のちょっと嫌なところを描いていて新鮮だった。”じわり”は直接は指の冷えに掛かっているけれど、剥くにも響いている。自分の手元をじっと見ている様子が伝わってきた。
沼のような電話だヒヤシンスを探す 宮崎斗士
沼のような電話ってどんなだろう。嫌な頼まれごとをしているとか、愚痴を聞かされているとか、だんまりだとか。けれど”沼のような”と例えて言っている時点で作者の意識は電話から半分それていて、何かないだろうかと目は彷徨っている。そんな電話だから、ヒヤシンスがより一層美しく鮮やか。
家にゐて鶯笛が安心す 西村麒麟
夕べからぽろぽろ泣くよ鶯笛 同
おかしく悲しく飄々としていて、三十句並んでいるからこそのしみじみだと思った。
後半にあったこの句、鶯笛はもはや友達といった感。鶯笛が安心するから自分も安心して、自分が泣くから鶯笛も泣いて。その直接さが少し羨ましい。
たましひのゆるびてをりぬ花月夜 山田真砂年
昼の桜は華やかで心が浮いてくるけれど、夜の桜にはどこか緊張させられるような気がしていた。けれど、この句では花月夜でこそ”ゆるぶ”ことができるのだと。一読、ああ桜の下で気持ちを解きほどいている悠々とした句だと思ったけれど、もしかしたら、作者はたましひがゆるぶということを全くの肯定的な事とはしていないのかもしれない。どこか不安を伴った”ゆるぶ”なのかもしれない。立ち止まると色々考えてしまう。
第258号
第259号
■西村麒麟 鶯笛 30句 ≫読む
第260号
■宮崎斗士 空だ 10句 ≫読む
第261号
■hi→作品集(2010.10~2012.3) ≫読む
■新作10句 イエスタデー ≫読む
第262号
■山田真砂年 世をまるく 10句 ≫読む
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