林田紀音夫全句集拾読 224
野口 裕
明るさの落葉ひとりに風が吹き
落ちてくる木の葉にまじる憂さ辛さ
木の葉降る人の背ばかり消える中
新たなるかなしみ柿の葉が落ちて
桜落葉の昨日につづく色は濡れ
桜落葉を踏む日がすべて遠くなる
白昼の手品の色の落葉生む
流れ寄る木の葉にいつからのひとり
人びとに枯葉の空を深くする
昭和五十七年、未発表句。三百九十八頁の二十八句中九句が落葉・枯葉関連の季語を中心とした句。句としては、六句目が一番の出来か。七句目のモチーフなどフランク永井歌うところの「公園の手品師」と酷似する。季語から連想される感慨に添った素直な句が連鎖していると見ることができる。
ここから逆に、紀音夫本来の資質にはごく自然な発想が根にあり、こうした資質の人間が無季俳句を作るようになった第二次世界大戦後の世情の特異性に思い至るべきではないか、というふうに考えたりもする。
今日なお、無季俳句が有効である一因は、現代がなお昭和二十年代・三十年代の余韻を引きずっているためと見ることもできよう。もっともそんなことを言い出すと、俳句の伝統と言われるものの多くが、子規・虚子以降の近代を引きずっているとも言えるので、こうした論拠をもとに論陣を張るのは控えた方が良さそうだ。
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朝と夜のタオルのしなやかな重さ
昭和五十七年、未発表句。タオルの質感に触発されて生まれた句だろう。朝と夜で同一の質感を指しているのか、朝と夜での質感の違いをこえた何ものかを指しているのか、よくわからないが、「しなやか」という語に期待感を抱く紀音夫の心情だけは伝わってくる。
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2012-07-29
林田紀音夫全句集拾読224 野口裕
Posted by wh at 0:05
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