【週俳10月の俳句を読む】
見晴らしの句
高畠葉子
私は今鬱々としている。道という道が哀しい方へ暗い方へ向かっている。しかし、句を読み、何か書こうという位の気力はまだある。こんな読み手がたまにいてもいいだろう。
前述の通り、鬱々としておりますゆえに、作者のみなさまには違和感があるかとも存じますがご容赦を。
をととひの人体並ぶ欠伸の忌 忌日くん
おほぞらの動脈つかむくびれの忌
忌日くん。撰は天気氏。
をとといの人体とはさて?生きておるのか、死んでおるのか、それとも人形なのか・・・・ミステリアスだ。しかも「欠伸の忌」。どうしても、「おととひの人体」と言われると生気が感じられない。おそるべしロボット!なんというか・・・・ヒトのツボを掴まれた気がする句だ。
あわせて、「くびれの忌」。これはまぁお遊び的な印象がするのだが見過ごせないのが「動脈」の一語。大空に動脈があったとしたらこんな恐ろしいことはない。やはり、ロボット。多くの言語から人間が恐ろしく感じる言葉を並べてくるのだろうか。また、逆に、心をくすぐる甘い言葉も紡いでもくるのであろうけれど。
秋晴れやひたひに眼あきさうな 佐藤りえ
ひたひたに眼。涙としか思えないネガティブな私。気まぐれな秋の天気の合間の秋晴れ、ひたひたに涙を湛えた眼。眼あければポロリと頬を伝う。そんな秋晴れ。晴れてやっと何か動きそうな予感。
秋晴れやの詠嘆に同意。
他にもの考へないで葡萄食む
葡萄を食べるとき位、何も考えたくないよ。と私は思う。あの粒粒を口に入れるとき何か考えろと言われてもそれじゃ味わえないじゃないか!と言いたくなる。葡萄とは、食べる前の姿・色・匂い。食べた後の殻に「あぁ、食べた食べた。」と、指を見ると葡萄色に染まっていたり。ここにこそ魅力があると思ったりするのだが?
しかし、ここにはもうひとつ。思うところがある。「一人になりたい」という心。無心に食べるをよそおい孤独をかみしめる。そんな思いも・・・・。
秋雲や愉快な人といふ評価
愉快な人。ただ愉快な人ではないはずだ。哀しみとか痛みとかちょっとした毒とか持っている。そんな人が愉快な人だろうなぁ。
秋の蚊の気の毒に様つけてやる
ほらね。ぺしゃりとやられる蚊に「お気の毒」様なんてつけてやる人だ。思えばひたひたの涙も葡萄を食べる時も哀しい愉快な人なのかも知れない。
見晴らしのよき曼珠沙華咲くところ 手銭 誠
本物の曼珠沙華を見たことがない。見晴らしのよきところ。そこに曼珠沙華が敷き詰めたように
咲いているのだろうか。それとも、曼珠沙華が見晴らしのよきところに咲きあの世この世を眺めているのだろうか?
田んぼの畦道などに咲いていると聞くが曼珠沙華だけが咲くところ。こんな句はいつか見たいと願う心に夢を見せてくれる。
晩秋の机を取れば広くなる
晩秋の机。さて、季語を取ってみようか。机をとれば部屋は広くなる。が、晩秋の机だ。低い陽が部屋の奥まで差す季節。この机をよけたらば、まっすぐに晩秋の陽が差す。机も「寄せる」ではない。
「取る」だ徹底的によかす訳だ。ここにも見晴らしのよさを求めた作者の気持ちが有るのではないかとちらりと思う。
松手入して庭の翳あらたまる
松手入れ。これもまた見晴らしの句と読ませて頂いた。松の影が変われば庭の翳も変わる。「あらたまる」という措辞に少し寂しさを感じてしまう。
なまじ雨落ちたる朝の露けしや 草深昌子
初学のわたしには草深氏のお句は少々難しく勉強になった。露の間というタイトルからやはり露の句は外せないと思った。
この句は、やはり難しい。「露けしや」がこのまま読んでよいものか・・・・露けしや。もしや涙に明けた朝であったのではないか?と妄想にくれる。なまじ雨と涙に濡れた朝。素敵である。
露の身のものを食ふこと怠らず
露の身となりてもものを食う。怠らずというからには本当のところはあまり食はすすまないのであろうか。人間最後は体力だと聞いたことがある。ここ一番、踏ん張れるかどうか。食うか食わぬかにあるのだろう。
平らなるところなかりし花野かな
花野。人生に例えるならば後半生に咲く花たち。地味ながら味わい深い色と枯れ草とのコントラストは美しい。その、地が平らな訳がない。一分の隙もなく納得の句だった。
月光の入り来るらし耳の穴 飯島士朗
耳の穴に月光が入る・・・・もしも他に月光が入るであろう人間の穴。例えば口・目・鼻・へそ・以下略・・・・。まぁ、どこも平凡で以下略の部分は略する訳で。
顔の横にある「耳の穴」に月光が入り来るとはどう読むか。腕枕で横になっているのだろうか。もしやそこに月光が入り来るという伝説があるとでもいうのか、じっと眺めているもう一人の誰かの存在とか?膝枕で耳そうじをしているとか?月光で耳掃除などできそうにないがそんな「あそび」として
月光を待っていたのかも知れない。
とにかく「入り来るらし」。月光が選んで耳の穴にやってくるのだ。
憎しみのほのかに香る菊枕
菊枕。手のかかるものであろう。そこには情念を感じる。だからこそ、憎しみもほのかに香るのだろうがそれもまたスパイスであると思う。
濡縁にロシア貴族のやうな蛾が 西原天気
ロシア貴族のような蛾!ここにもうやられた!その蛾はビロードのような色と手触りでしたか?白いレースのハンケチもっていましたか?
つぶされてごきぶりの具に黄の混じる
ごきぶりも実物は見たことがない。「つぶす」ではなく「つぶされて」とごきぶりの身となるその目に惹かれた。確かに具に黄が混じっているのですね。そんな気がしていました。
第285号 2012年10月7日
■忌日くん をととひの人体 10句 ≫読む
第286号 2012年10月14日
■佐藤りえ 愉快な人 10句 ≫読む
■手銭 誠 晩秋の机 10句 ≫読む
第287号 2012年10月21日
■草深昌子 露の間 10句 ≫読む
第288号 2012年10月28日
■飯島士朗 耳の穴 10句 ≫読む
第284号 2012年9月30日
■西原天気 俳風昆虫記〔夏の思ひ出篇〕 99句 ≫読む
2012-11-10
【週俳10月の俳句を読む】高畠葉子
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