【週俳9月の俳句を読む】
滝のもう一方の本質
小池康生
滝しぶき燭の炎の揺るがざる 高柳克弘
滝は清涼感のある場所であるが、一方で危険な場所なのである。
燭の炎があるので、神社の滝だろう。禊が行われる。禊は、魂の悪い気を排出して人間を浄化する。
ここで忘れられがちなことは、滝壺には、吐き出された気が漂っているということだ。禊の見学などをしてはイケナイ。下手をすると、悪い気を持って帰ることになる。
浄化作用と、澱の溜り場。滝壺には二面性がある。その近くにある社の燭の炎は、しかし、揺るぎない。
滝のもう一方の本質に迫る句とお見受けした。
顔寄せてミントにほへる浴衣かな 高柳克弘
あのメーカーの100円のものだろうか。おもしろいCMを流すあのメーカーのものだろうか。私もミント愛好家だが、ミントの香が他人を不愉快にしていないか、結構、気にしている。こんな風に詠まれたなら幸せだろうな。
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秋灯のひとつ港を離れけり 村田 篠
秋灯は、家であったり、陋巷の巷であったり、そこにじつとしているものと思っていたら、動きだした。ありゃ。新鮮な驚き。軽い驚きだが、それは秋に見合うもの。
沖まで、作者は視線で追いかける。気持ちよく。
町名のここより変る白芙蓉 村田 篠
国境や県境は、争いの場所。賢い民族は中立地帯を設ける。
白芙蓉は、美しい中立地帯だ。
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団栗を持ちそれなりの気分かな 今泉礼奈
「団栗」という季語は難しい。それをさらりと交わすかのような句。
確かに。確かに。
溢蚊をそつとはらひて告白す 今泉礼奈
「溢蚊」と「告白す」の取り合わせは、とても新鮮。
だれでも言えることを書くと、中7があまりに・・・。
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さびしいさびしい幽霊ついてくる 北川美美
なぜ、ついてくるのか。幽霊だからだ。
まだ、広く認知されていないが、「銀化」では、幽霊は夏の季語。
この句は、晩夏だろうか。
鶏を乳白色に煮て白露 北川美美
参鶏湯だろうか、単に鳥ガラスープだろうか。
露も白く濁るが、作者の料理も白く・・・。色合い、雰囲気からは、暑さと涼しさの入れ替わり。旨そう。
幽霊も頬被りして踊りの輪 北川美美
幽霊を季語とすると、三つの季語。二つであろうが、三つであろうが、確信犯であろう。こういう句を発表できるところが、週刊俳句。
しかし遊びで書いているのではないだろう。大阪の南河内にもそういう幽霊はいた。
抜歯するほかに手はなし秋の暮 北川美美
釣瓶落しのように、ストンと昏くなる気分。
いやだ、いやだ。しかし、どこかに達観した気分も混じり、スルーできない句。
この人の句を追いかければ、もっと深い共感があるような気がする。
もとい(出たぜ、“もとい”)。一行目から勝手なことを書いた。九月には、もっとたくさん佳句があったはず。
わたしは、わたしの鑑賞できる句だけを書き、書いたつもりになり、何も書けていなくて、しかし、また書きたくなるのだ。
妄言多謝。
第332号 2013年9月1日
■髙柳克弘 ミント 10句 ≫読む
第333号 2013年9月8日
■佐々木貴子 モザイク mosaic 10句 ≫読む
■内田遼乃 前髪パッツン症候群 10句 ≫読む
第334号2013年9月15日
■村田 篠 草の絮 10句 ≫読む
第335号2013年9月22日
■小早川忠義 客のゐぬ間に 10句 ≫読む
■今泉礼奈 くるぶし 10句 ≫読む
■仁平 勝 二人姓名詠込之句 8句 ≫読む
第336号2013年9月29日
■北川美美 さびしい幽霊 10句 ≫読む
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2013-10-06
【週俳9月の俳句を読む】 滝のもう一方の本質 小池康生
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