【週俳10月の俳句を読む】
感性の顔
藤井雪兎
目だけを見ても誰なのかわからないのと同じで、俳人の感性を知るには最低十句は読まなければならない。十句集まってようやくその俳人の「感性の顔」が出来上がる。そして、鏡などを使わないと自分で自分の顔を見られないように、それは他人の方がよく知っているのかもしれない。
風一片灰から灰へのりうつる 西原天気
風が形を持つには、何かの姿を借りなければならない。のりうつられた灰は、風という憑き物が落ちた後で、自分の姿とその周りを不思議そうに見渡すのだろう。
赤茄子を二三歩離れものおもふ 上田信治
斎藤茂吉は歌人の中でも好きな部類に入るが、もし俳句を書いていたらと考えることがたまにある。この句は字数の関係で「腐れてゐたる」という重要な情報が無くなってしまっているが、短歌からインスピレーションを得ようとする試み自体は悪くない。俳人と歌人が同じ景をどのように写生するか実際に試してみるのも面白いかと思う。ちなみに十句には二句足りなかったが、上田氏の過去句を読んで彼の「感性の顔」を補完した。
父となることのしづけさいわし雲 山口優夢
父になるということは、自分の「顔」が増えることである。と同時に、世界が広がるということでもある。静けさの中でじんわりと広がる世界を表現するには、やはり季語は「いわし雲」が最適である。
精子より卵子大きい炬燵かな 村越敦
そもそも人は、激しい競争を勝ち抜いた精子の結果として誕生するのだが、受精時の感覚を知っている人はまずいないだろう。だが、炬燵ならそれを疑似的にでも体験できるのではないか、と思わせる所が炬燵の魅力であり、魔力なのだ。
初雪がくるつれてくるついてくる 鈴木牛後
この句を初雪についての喜びと読むことも可能ではあるが、北国の人間ならそのようには絶対に読まない。むしろ冬の到来に対する焦りを感じるだろう。流れるようなリズムの何と絶望的なことか。まるで不幸の連鎖だ。同じ北国出身として、これ以上初雪が他の雪を連れて来ないことを祈る。冬は莫迦くへなぁ。
なるべく全員の句にふれたかったが、あまり長くなっても困るので割愛させていただいた。しかし、皆様それぞれの「感性の顔」があったのは確かである。
第337号 2013年10月6日
■高橋修宏 金環蝕 10句 ≫読む
第338号 2013年10月13日
■西原天気 灰から灰へ 10句 ≫読む
■上田信治 SD 8句 ≫読む
第339号 2013年10月20日
■山口優夢 戸をたたく 10句 ≫読む
■生駒大祐 あかるき 10句 ≫読む
■村越 敦 秋の象 10句 ≫読む
第340号 2013年10月27日
■鈴木牛後 露に置く 10句 ≫読む
■荒川倉庫 豚の秋 10句 ≫読む
■髙勢祥子 秋 声 10句 ≫読む
2013-11-10
【週俳10月の俳句を読む】感性の顔 藤井雪兎
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