林田紀音夫全句集拾読 291
野口 裕
犬連れて薄暮は言葉すくなくて
平成四年、未発表句。ちょっと暗くなってきた中、黙礼だけで行きすぎた人。犬だけが前へ前へと進もうとしている。佳句。
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運動会午後へ乾いた曲流す
平成四年、未発表句。「へ」で生きた句。呪詛に近い響き。
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或るときは霧笛もまじえ鳩時計
平成四年、未発表句。そろそろ鳩が飛び出す頃かと時計を眺めていると、あらぬ方からもっと低音が響いてきた。外は霧なのだと気づく。気を取られているうちに、鳩が何回飛び出したかがわからなくなってきた。不眠症の紀音夫が寝つけずに出会った景か。
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木の葉降る天に傷して飛行雲
平成四年、未発表句。生命を失った物体のゆるやかな下降とは裏腹に、下降速度よりもさらにゆっくりと上昇してゆく視線の先に、飛行機雲を認める。「傷」は、長い実生活で得た痛ましい体験よりも万人が持つ言いがたい感覚、すなわち「感傷」と読んだ方がこの場合はすんなりと納得できる。
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2013-11-17
林田紀音夫全句集拾読 291 野口 裕
Posted by wh at 0:02
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