【週俳11月の俳句を読む】
ふと夢想してしまう
藤幹子
ナッツの瓶ゆびでまさぐり日短 関根誠子
ナッツの瓶の中をこの人は見ていない。探り慣れた瓶を探り慣れた指で,視認せずとも的確に木の実をつまみ出すだろう。
燈火親し眼鏡を透かす拭く掛ける
一連の行為はこれまでも何度となく繰り返されていることだろう。あるいは一晩のうちに何度も。冬の訪れと共に増える機械的な愛撫の繰り返し。愛されているのだ,この眼鏡は。
冬うらら水揚げてゐるモネのポピー
外の暖かい日差しも,わが身でなく絵の中のポピーに降り注ぐ光と呼応し,活き活きとしていくのもまた絵の中の事物の方である。
まなざしの主体は,おそらく室内に滞留している。身の丈の範囲に見たいもの,感じたいものがそろっている。外に出る必要はない。見たければ窓から落葉松を越える日の出を,大きな朴の葉の舞い散るのを見ることができる。かつて恣にした人形,夢の飛行船の模型,追憶の装置には事欠かない。美しい田園風景は絵として壁を彩る。
ぬくもりの満ちる部屋の中で,手の届く範囲で手の届くものを選び,好きなものだけに囲まれる生活は,ナッツの瓶からお気に召すまま探り出す行為を,延々拡大しているようだ。
あまりに充足した部屋に,一読者としてはどこかほころびを,いや,カタルシスを覚えさせるような破壊を,ふと夢想してしまう。
いつか,ガラスを破りツェッペリン号がこの部屋を飛び出す日が来るのではないか。その時初めて,かの人の問いに答えが見つかるのだろう。
山眠るわたしは何を探せたか
第342号2013年11月10日
■本井 英 柄長まじりに 10句 ≫読む
■山岸由佳 よるの鰯雲 10句 ≫読む
■仁平 勝 女の園 10句 ≫読む
第343号2013年11月17日
■関根誠子 ナッツの瓶 10句 ≫読む
■大和田アルミ 桃剥いて 10句 ≫読む
第344号2013年11月24日
■岩淵喜代子 広場 10句 ≫読む
■相沢文子 小六月 10句 ≫読む
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2013-12-15
【週俳11月の俳句を読む】ふと夢想してしまう 藤幹子
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