林田紀音夫全句集拾読 297
野口 裕
西瓜食う離ればなれの顔をして
平成五年、未発表句。どんな顔なのか、考え出すとよくわからないが、西瓜のあちこちにばらまかれている種を見ていると、そんな顔になるのだろうか。ユーモラスな響きの中に苦みもある。
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鵙の声射す乳呑児のつくる拳
平成五年、未発表句。赤ん坊の未来に影が差すような印象は、第二句集「幻燈」の第一子誕生時の句風を彷彿とさせる。違いは、たとえば「泡の言葉のみどりご鉄の夜気びつしり」が、「露」というような季語から発想した句を無季に置き換える脳内作業を省略しているところか。この句の場合は、季語「鵙」の持つ毒気が強すぎて、あまり成功しているとはいえない。
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前後して鳩のついばむ地の落葉
平成五年、未発表句。鳩にとって食えるものはあったのだろうか。いや、なかった。受験用英文和訳風のだめ押し文体で書けばそういうことになろう。「かな」を使わず、「地の」と流したところでそんな戯れ言も出てくる。ペシミスティックな情感は、かなり後退している。
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2013-12-29
林田紀音夫全句集拾読 297 野口裕
Posted by wh at 0:02
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