【週俳1月の俳句を読む】
いろいろ
今泉礼奈
世の中にはいろんな年越があるようで。
焼く餅の数聞きまはる祖母の家 江渡華子
おばあちゃんに頼まれて、まわりの大人たちに「おもち何個食べる?」って。大人と大人の間をすり抜けて、何度も、それぞれの正面にちゃんと立って聞いてくる女の子が、ここにみえる。そのあたり、大袈裟だけど「聞きまはる」がしっくりくる。もしかしたら、おばあちゃんの元に戻ってきた時には、数を忘れているかもしれないけど、許されると思う。祖父じゃなくて、「祖母の家」だから。
いくたびか地名に見惚れ年賀状 小池康生
年賀状を書いていて、おっ、と思う地名がたまにある。少し筆を置いて眺める、自分の字を。気になるけど、ググったりはしない。気になっているのは地名だけなんだし。地名よりも、いつもより丁寧な自分の字になんだか一年の終わりを感じていたりするものだし。
筒にして覗くと青し初暦 高勢祥子
青い空、もしくは、青い海の写真がプリントされてあるカレンダーなのだろうか。筒にして覗いたとき、その青さは、奥の丸い光に照らされて、妙なグラデーションになっている。さっきとはちがう青さ。青に吸い込まれるかのような一句である。
差し色の赤の突出風邪心地 玉田憲子
次は赤。差し色としてアクセントをつけるために、赤色を入れたのに、それが突出してしまうとは…。頭がぼーっとしているから、そう見えるのか。赤色はすこし怖い色です。
双六の一回パスに鱲子(からすみ)出る 佐怒賀正美
カラスミ未経験者の私なら、なおさら、カラスミが登場したときの反応は異常だと思う。とりあえず食べる前にめっちゃ見るし、カラスミに失礼のないように感想もめっちゃ言う。双六のパスもありがたい。ゆっくり順番がまわってきますように。
寒さうに未来を売りぬ暦売 川名将義
「未来売ってます☆」みたいな暦売はいやだ。誰だって、希望や期待に満ちあふれた未来より、どうにかしてあげなくちゃならない未来の方が買いやすいだろう。「未来を売りぬ暦売」は、マ行とラ行が効いていて、声に出したくなる。
冬深しコーヒー豆の黒き溝 小野あらた
コーヒー豆はもちろん黒く、その溝はつくづく黒い。コーヒー豆の溝の深さ、その黒の深さ、と「冬深し」が絡み合っていて、もはや他人事っぽい冷たさがある。と、思えば、
セーターを脱げば眼鏡の引つ掛かる 同
小野先生、次は眼鏡外してからにしましょうね。
それでは、(とても今更ですが)皆様、よい一年をお過ごしください。
■新年詠 2014 ≫読む
第352号2014年1月19日
■佐怒賀正美 去年今年 10句 ≫読む
■川名将義 一枚の氷 10句 ≫読む
■小野あらた 戸袋 10句 ≫読む
第353号2014年1月26日
■玉田憲子 赤の突出 10句 ≫読む
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