林田紀音夫全句集拾読 307
野口 裕
倒壊の壁や柱に誰の傷
平成七年、未発表句。倒壊家屋を主題とする発表句は、「倒壊家屋の暗部の脆さ引き当てる」(平成八年、「海程」)、「倒壊家屋の暗部より罅陸続と」(平成八年、「海程」)、「倒壊の家屋生木を裂く部分」(平成八年、「花曜」)の三句。「解体家屋の悲喜とりどりの土埃」(平成八年、「花曜」)という句もあるので、家屋の解体作業に遭遇しての句と見てよい。
未発表句は、「誰」が分かりにくいが、自身の傷心をまざまざと見る心地がしての反語か。
●
折々は震災以後の空まぶしむ
平成七年、未発表句。震災に取材した平成七年の未発表句は十八句ある。その最後が上掲の句。次の「雲の流れる昨日の今日のサングラス」とセットとも取れるが、一応別景としておく。晩年に訪れた悲惨な状況から辛うじて抜け出した感慨は、「空まぶしむ」としか言いようがなかっただろう。
●
帆走のこがらしいつの夜よりか
平成七年、未発表句の最後。次の年に句作を絶つ。平成八年の海程に、「何処をどう歩いて海のこがらしか」。最後まで発表は一年を経てからの姿勢を貫いている。
●
2014-03-16
林田紀音夫全句集拾読 307 野口裕
Posted by wh at 0:04
Labels: 野口裕, 林田紀音夫, 林田紀音夫全句集拾読
登録:
コメントの投稿 (Atom)
0 comments:
コメントを投稿