長嶋有×榮猿丸×野口る理トークイベント「春のお辞儀がしやりりと点滅」に行ってきた
堀下翔
2014年5月10日の夜にジュンク堂書店池袋本店で催された長嶋有×榮猿丸×野口る理トークイベント「春のお辞儀がしやりりと点滅」(ふらんす堂主催)に行ってきた。最近それぞれが出版した句集の話をするイベント。そのときの様子を書く。詳細な内容は「ふらんす堂通信」第141号に掲載されるとのことなのでそちらに譲り、これは気楽な報告にしようと思う。
夕方、生駒大祐氏に誘われ、佐藤文香氏と三人でお茶。その後、ジュンク堂で上田信治氏と合流する。上田氏が「まわりが全員俳句関係者に見える」とつぶやく。まさにその雰囲気。会場に入ると、俳句関係者が何人もいる。ほんとうに全員が俳人なのでは……と思っていたが、どうやら長嶋の小説のファン層も多く来ているらしい。長嶋の「僕の小説を読んでくださってる人とか俳句というものになじみが薄い人も来ていると思うので、ぜひ、俳句そのものの面白さに興味を広げてもらって……」という切り出しから、会は始まる。
それぞれの句集から、他の二人が特選・並選5句・逆選を選出し、わいわい言い合う形で進行する。選は、以下の通り。
長嶋有『春のお辞儀』
榮猿丸選
◎手押しポンプの影かっこいい夏休み
○ベルリンにただの壁ある去年今年
○ラッパーの順に振り向く師走かな
○としまえん秋という短きものよ
○初夏や坊主頭の床屋の子
○かけてみたくなりすぐ返すサングラス
×昼の忍者桜をみたら眠くなる
野口る理選
◎七月やなんだといわれ森の猫
○エアコン大好き二人で部屋に飾るリボン
○ドーナツを食べ終えし手の甘さかな
○秋近しだんだんでなく森終わる
○(ああもっともだ)体は拭いにくきもの
○夏シャツや大きな本は置いて読む
×ストーブは爆発しない大丈夫
榮猿丸『点滅』
長嶋有選
◎テレビ画面端に時刻や春愁
○ゴダール黒縁眼鏡クロサワ黒眼鏡
○竹馬に乗りたる父や何処まで行く
○呼鈴の釦に音符蔦枯るる
○クレジットカードにホログラムの虹春立ちぬ
○滑走路より長き金網みなみかぜ
×手を入れて汝が髪かたしクリスマス
野口る理選
◎汝が寝息吸うて眠らむ夜の涼し
○朝起きてTシャツ着るやTシャツ脱ぎ
○欄干掴めば指輪ひびきぬ夏の河
○ガーベラ挿すコロナビールの空壜に
○受話器冷たしピザの生地うすくせよ
○髪洗ふシャワーカーテン隔て尿る
×女去るわれに香水噴きかけて
野口る理『しやりり』
榮猿丸選
◎夏座敷招かれたかどうか不安
○せんかうのけむりうらがへり苺へ
○虫の音や私も入れて私たち
○葱ぶんぶん回せば猫の立ち止まる
○恋人のほくろに小さき鶴棲むか
○毎日に要らねど欲しきテントかな
×死は神に捧ぐものなり志も私も詩も
長嶋有選
◎しづかなるひとのうばへる歌留多かな
○洗髪や目閉ぢてよりの声が変
○茶筒の絵合はせてをりぬ夏休み
○風鈴や家族揃へば夜が来る
○呼ぶための口笛強し青芒
○中年や木の実当たれば嫌な顔
×撮られまいとてラムネ振り浴びせけり
選を眺めるだけでたのしい。選評の全容は「ふらんす堂通信」をお待ちください。
この会、どうやら、鼎談というより、長嶋がホストとして設定されたものであったらしい。長嶋氏、とにかく喋る。全トークの七割は長嶋のものだったのではないか、ぐらいの印象。二人の選評を乗っ取っても喋る。その中で長嶋の俳人としてのキャラクターがよくよく見えてくる。
本業が小説家である長嶋有は、まさに文人俳句の作家だと思う。つねに俳句の世界の外から俳句を眺め、面白がる。会における氏の発言には、俳句の面白さというよりも、俳句という形式に身を置くことの面白さに魅せられたものが多い。たとえば、彼は、『しやりり』の句の並びが、正月から始まる季節順であることに驚く。「東京マッハ」の初回で、堀本裕樹氏が「保守的な、すぐ添削する俳人だったらどうしよう」と怖がる。「嫁が君」という難しい季語を使う榮・野口は「季語を使おうという意欲がある!」のだと思う。
いちばん象徴的だったのは、前書に関する発言。自句に前書をつける理由を彼はこう語る。「前書つけたい、と。句集って、ナントカカントカ、5句、みたいのあるじゃないですか。奥尻島、3句みたいな。あと、ナントカ先生をしのぶ、みたいな……(中略)あったほうがプロっぽい」。プロっぽい。句集を出版したあとでさえ、長嶋は、プロであろうとはしない。俳句的な慣習が身に染みついてゆくよりも、そういった慣習を外から面白がる方が、たのしい。句集を出すという行為自体、彼にとっては、そういう面白味のひとつだったのではないか、とも思える。
むろんその立ち位置は、俳句に関して素人である、ということとイコールにはならない(長嶋の公式Twitterのイベント告知には「ドサクサで俳人に紛れんとする長嶋の付け焼刃トークに期待」とあるものの、彼は20年の句歴を持っている)。彼は、『点滅』の逆選の理由は「リア充だから」だと笑いを取る一方、榮の作風を『点滅』中表紙の写真から指摘する(洗濯洗剤の計量スプーンで植物を育てている写真は、人工物に季感を見出す榮の句風を象徴している)など、鮮やかな視点をいくつももたらす。
榮、野口の話が面白かったことももちろんである。榮は田中裕明賞を受賞したばかりだし、野口はなんと臨月。(いい意味での)突っ込みどころが満載のイベントであった。
2014-05-25
長嶋有×榮猿丸×野口る理トークイベント「春のお辞儀がしやりりと点滅」に行ってきた 堀下翔
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