【句集を読む】
静かなミシンの景色
『関西俳句なう』の一句
西原天気
行く春や踏まねば動かないミシン 三木基史
足踏みミシンはすでに骨董品扱いかというと、そうでもないらしい。用途によっては電動よりも使いやすく、いまも「現役」として働き続けている足踏みミシンも数多いらしい。
さて、掲句。中七の否定スタイルは、おのずと肯定〔=踏めば動く〕という対照を伴って読者に届く。それは〔人の不在〕が〔人の存在〕の欠落を示すのと、ほぼパラレル。
踏めば動くミシンが、動かずにそこにある。いてもいいはずの「人」が、そこにいない。
とても静かな景色です。
句は「人」までは言わない。言ってはいないけれど、思わざるをえない。それは、現実として想像として「人」を伴う、あのミシンというもののあり方から来るものだろう。足踏みなら、なおさら。
収められた50句のタイトルは「いのちあるもの」。ミシンもまた「いのち」をもっているようにも思えてきます。
レトロな事物を扱い、「行く春」との照応でちょっと甘すぎるきらいはあるけれど、なぜかそこは許容できる。この句の叙情に付き合う気にはなるのだ。それは、あのミシンという機械の形象が支えてくれる興趣のなせる業かもしれないですね。
集中、
オレンジのへそ雑音を閉じ込める 同
は、知っている句だった。どこで読んだのだろう?と調べてみると、『週刊俳句』 第145号(2010年1月31日)掲載の句でした。
当時、この句について書いている。
≫http://weekly-haiku.blogspot.jp/2010/02/1_183.html
オレンジだから、いいのだろうなあ、と、いまあらためて思っている。ぽんかんや温州蜜柑では「閉じ込め」力が足りない気がします(なんだかわけのわからないことを言うようですが、実際、そう思う)。
2015-05-24
【句集を読む】静かなミシンの景色 『関西俳句なう』の一句 西原天気
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