2015-11-01

2015角川俳句賞落選展 14 仮屋賢一「鷲掴む」テキスト

14. 仮屋賢一 「鷲掴む」

天辺の尖れば家や夏きざす
横笛の音のときどき若葉光
最後まで音の鮮やかなる新茶
母の日や妹に訊く母の趣味
大袈裟に幸せ束ねカーネーション
鯉幟肥れるものを男とす
新緑や鬣かたきチェスの馬
ゆたかなる水ゆたかなる扇流し
扇流し水の機嫌を訊ねつつ
三船祭鷁首の龍を惑はせて
桜桃忌手足を描けば人となる
箱庭に夜逃げのやうな家のあり
霍乱やジョーカーの札入れ忘れ
樽廻船菱垣廻船心太
秋さがし終へし児らより休み時間
魚の絵の遊ぶお猪口や秋の風
大学の鬼門に実家天の河
留石を固く縛れる秋思かな
セスナ機も花野もおなじ風のなか
西口のどこか分からぬ神迎
絨緞のアラブの花を嗅ぐごと寝
味噌汁に海のもの入れ漱石忌
方違して竹馬を片付けり
小道具のパンはほんもの聖夜劇
編曲はクリスマスローズの部屋で
古暦すこし汚してより捨てり
夜通しの静かな雨や宝船
人日のニュースは人を呼び捨てり
勝独楽の立ちたるままを鷲掴む
終ひには紐いきいきと猿まはし
煙ごと串焼買ふや初戎
初恵比須神に冗談言ふことも
万札の上に銭投げ残り福
杖買うて使はずかへる初弘法
花の兄や我が尻つけて生駒山
楽園に音の少なき武満忌
下萌や旧字のままの解説版
大試験我が名一文字づつに意味
語呂の良き神より憶え地虫出づ
駘蕩や他人(ひと)の賽銭にて祈る
春の日や吊りて仕舞へる一輪車
苗札のたつぷりと水もらひけり
入口の横に窓描く巣箱かな
春雨や市場の陰の地蔵尊
笛吹きの声変はりして桃の花
逃げ道を多く拵へ壬生狂言
水性の朧油性の朧かな
今日中に批評一編蔦若葉
ちやうどよい齢はいくつ春日傘
花水木けふは午後よりはじまる日



■仮屋賢一 かりや・けんいち
1992年京都府生まれ。関西俳句会「ふらここ」代表。京都大学工学部情報学科。作曲の会「Shining」会員。Lotus Castle - 俳句のある空間

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