【週俳12月の俳句・川柳を読む】
仮に「象」と名づけられたエーテル
西原天気
嵌めて鳴る革手袋や月曜来 相子智恵
この音は、自分と外部のあわいで鳴る音です。皮膚の近くと言ってもいい。月曜日がまた始まり、家から外へと出かけるそのときに鳴る、その意味でも内と外のあいだ。
俳句もまた(と強引に)、内と外のあわいで「鳴る」ものなのですよね。
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冬けふも居間占むる象気にとめず 関悦史
よほど広い居間でないかぎり、居間は象でいっぱい。隙間はありません。象がぎゅうぎゅうゆってる。
作者はどこに居るのかというと、もう象の内部。あるいはその象は巨大すぎて固体から遠く(質量が芥子粒ほどで象ほどの容量があれば、そうなるになるはずだ、と勝手に妄想)、気体のように存在する「象」的なもの。
いずれにせよ、気にとめていては暮らしていけないので、この作者の態度は正しい。来る日も来る日も、象との同居は続きます。
で、春になったら、居間と作者がどうなるのか。とても気になります。冬けふも私のアタマを象が占むる、というわけなのですよ。
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あの川を金曜日と呼ぶことに 樋口由紀子
七曜の由来は、宇宙、それも天動説だそうです(そういえば地曜日はない)。
名づけることは、天動説に似ているような気がします(どう似ているか説明するのは難しいので、どなたかの厳密な思考にお任せします)。
さて、と。あの川が金曜日なら、火曜日と呼ばれる川もあるのか? そうとは限りません。川を眺め、空を眺めるこの作者が、それをどのように眺めるかは予測不可能。
私たち読者とは別タイプの天球儀と世界システムを携えた人が発することを、ただ聞く。なぜ?などと思わず、そう言うからそうなのだと、贅沢に事態を受容する。この句、幸福な読者でいさせてくれる句ですね、じつに。
2016-01-17
【週俳12月の俳句・川柳を読む】仮に「象」と名づけられたエーテル 西原天気
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