【週俳12月の俳句・川柳を読む】
こんなに冷えて
田中 槐
●相子智恵「月曜日の定食」
嵌めて鳴る革手袋や月曜来 相子智恵
仕事へと出かける朝の引き締まった気分が伝わる。「嵌めて鳴る」というやや性急な表現が、ここでは朝の忙しなさや革手袋の硬さをも表している。「や」で切れたあと、ここが肝心とばかりに下五の「月曜来」。なるほど、これが「澤調」か。月曜なのに気怠さはない。そこも、羨ましい。
●関悦史「水曜日の変容」
丸石にされ冬天を支へをり 関悦史
冬けふも居間占むる象気にとめず 同
テニスしてをりしがいつか枯草に 同
どの句にも不条理が描かれているのだが、諧謔味がちょうどいい。一句目の「丸石」、関さんのあの黄色いオリビアを彷彿するし、二句目の「象」も、関邸にはいかにもいそうである。三句目はちょっと怖い。「してをりしが」の後の世界に、わたしたちはもういる。
●樋口由紀子「兼題「金曜日」」
キンヨウビ冷凍庫の奥にあり 樋口由紀子
金曜日がカタカナになるだけで、こんなに冷えてしまうなんて。
●角谷昌子「壮年の景」
夭折にあこがれしこと石蕗の花 角谷昌子
俳人は(歌人も)石蕗が好きだ。派手すぎず、地味すぎず、塩梅がいいのかもしれない。下五に「石蕗の花」と置けばたいていの句がいい感じの句になるとも言われるが、この句くらいメタ的にベタな方向に行くという手もあったか。
●太田うさぎ「以後」
自転車の素手の時雨れてゆくばかり 太田うさぎ
冬の自転車は手が寒い。雨が降ったらなおさらのこと。「素手」という語が、逆に手以外の部分は防寒されていることを思わせる。冷たい雨に打たれて悴んでいく手、そこに作者の目が釘付け。
●西村麒麟「狐罠」
紙振つて乾かしてゐる十二月 西村麒麟
年賀状の印刷をしているのだろう。芋判かもしれないが、ふつうにインクジェットのプリンターのような気がする。乾かないと裏面が印刷できない。ちょっと急く気持ちが〈紙を振る〉という、さほど効果のなさそうな行為に反映されている。「紙」が「年賀状」ならもっとわかりやすいが、そうか、俳句では年内に年賀状を印刷している句はつくりにくいのだな。
2016-01-24
【週俳12月の俳句・川柳を読む】こんなに冷えて 田中 槐
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