【週俳1月の俳句を読む】
耳の後ろに
ふけとしこ
魚ん棚に魚のかがやく淑気かな 森賀まり
初売りであろうか。整然と並べられた魚に淑気を感じるという。「魚ん棚」とは明石の商店街の名称。名の通り魚が中心の商いである。明石港が近く瀬戸内の新鮮な魚介が求められるとあって賑わう所だ。年末には正月用の買い物でごった返したであろう店や通りも、年が明けると落ち着いてくる。改めてゆっくりと見る魚の様子である。「魚」の字の繰返しで生きの良さ。「かがやく」の一語にめでたさを言い得た作品だと思った。
初空に鴨くちばしを上げにけり 対中いずみ
琵琶湖畔、堅田にお住いのいずみさんには湖の鳥は親しいものだ。鴨が潜ろうと天を仰ごうとそれは日常の景色と何ら変わることはない。変わるのは作者の方だ。
初空だ……と意識することによって見慣れた物にもちょっと改まった思いが湧く。ここでの鴨もそうだ。つと上げた嘴に目を留め、すかさず一句に仕立てるところに技を見る。「くちばし」の仮名書きも鴨と重ねたときの漢字やその画数の煩さを嫌ったものであるにせよ、平穏や明るさを現すのに効果を上げている。読み下したときの調べも心地よい。
正直に信号を待つお元日 河野けいこ
何とも正直な句である、馬鹿馬鹿しいほどに。元日といえば車も少ないだろう。この場合は赤信号であっても横断できるような状況ではなかったのか。一瞬「渡ってしまおうかな」と思い「いやいや、新年早々ルール違反はするもんじゃない」と思い直して、きちんと待つことにしたような……。改めて一句にするほどのことでもないのだが「お元日」であるが故に句にもなった、というところ。
そのちょろぎ生きていてまだ動くから 石原ユキオ
笑わせて頂いた。子ども相手の会話みたいだ。言われた方はちょっと怯むかも知れない。伸ばしかけた箸も止まろうというものだ。重箱の中の、或いは皿の上のちょろぎがウニュウニュと動き出したらどうだろう。シソ科の植物の根茎であるが、まるで巻貝のような形をしている。だから貝のようだとまでは誰でも言えるだろう。が「生きていて」「まだ動く」とまでは! こんな句も楽しくていいな。
揚羽蝶耳のうしろが痛くなり 曾根 毅
耳の後ろに釘かフックのような物でもあって、そこに首や肩や背中の筋肉がぶら下がっているとしたらどうだろう? その釘(フック)は疲れるだろうなあ。考えただけでズキズキしてくる。それはそれとしてここで何故「揚羽蝶」が出てくるのだろう。揚羽蝶には揚羽蝶の傷みや痛みがあるだろうが、ひらひらと飛んでいるのを見ている方はそんなことは思いもしない。むしろ、軽やかさの方を人は羨むものだろう。そんなことを考えていたら、この取り合わせの間がとんでもなく深いものに思えてきた。
2016-02-21
【週俳1月の俳句を読む】 耳の後ろに ふけとしこ
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