2016-04-17

【週俳3月の俳句を読む】 マクドナルド、しけったポテト 松本てふこ

【週俳3月の俳句を読む】

マクドナルド、しけったポテト

松本てふこ


吊雛めでたきものは土のもの  渡部有紀子
朗らかで、内容をぎゅうぎゅうと詰め込まずに
うたっている作者だった。
リフレインの多用によって耳になめらかに響く句が目立ったが、
これは意識的なものだろうか。
ただ何となくこうなってしまったのだろうか。
人参、蕪、筍、蓮根…地味なビジュアルではあるが
縁起物である土のものは、吊雛の中で見ると
何となく可愛らしく見えてくるから不思議である。

青き踏む面白きこと面白く
  渡部有紀子
諧謔の切り口に漠然と「現代」を感じる。
俳句の現代性について、先日の現代俳句協会の勉強会で考え、
あれこれと自分なりに思いをめぐらせたはずなのに
こうして実際に句に相対した時に
「このあえて感っぽいとこがー、なんか今っぽいっていうかー」と
説得力のかけらもない考えしか出てこない自分を何とかしたい。

白蝶の光硝子から硝子へ
  永山智郎
翳りの中にほんのり明るさを孕んだ感性と、
崩れかけの定型を時にギリギリで乗りこなす
不思議なバランス感覚が魅力的な作者だった。
この句もリフレインではあるのだが、
句またがりの使い方や言いさしめいた句のかたちが
なめらかに読まれることをかたくなに拒んでいる。

頬杖同士卒業を確かめ合ふ  永山智郎
この句に満ちているのは、日常の終わりの予感である。
いつも一緒に行ったマクドナルドで、
いつものセットを頼んで、ふたりでしけったポテトをつまむ。
塩の粒のついたストローでスプライトを飲むから、
ちょっとしょっぱい。
いつもと変わらずに頬杖をついて
だらだらと話しているだけなのに、
明日からはもう何も共有しない関係になる。
僕と君は四月になれば
似たような大学の似たような学科に通って
似たようなサークルに入って
似たようなタイプの女の子と付き合うのかもしれないけれど、
もうきっと僕は、こんな風に鏡を見るような気持ちで
頬杖をつく君を見つめることはないのだろう、というほろ苦い感慨。

花種に黒使はるる眩しさよ   西川火尖
ちょっと懐古趣味の感じられる音楽用語がちりばめられた句群。
レコードを詠んだ句の次にこの句が現れると、
レコードが割れて、その破片が花種に変わったようで楽しい。
「黒使はるる」という、何かとあざとくなりがちな擬人化が
下五の無邪気さでうまいことうやむやになっているのだろうか。
幼稚園の頃に父のレコードを勝手に聴いていたが、
針をうまく落としそびれて針が盤の外側へ飛び出してしまうことに
ひどい恐怖を感じており、そうなるとよく泣き叫んでいた記憶がある。
春の季感とレコードはよく似合う。

春月の余熱のやうに口ずさむ
   西川火尖
蒲公英や記憶正しいかも知れず
タイトルに引きずられたのか、音楽を感じさせる句に特に惹かれた。
春月の句は、ライブやカラオケ、もしくは何か高揚感のある出来事の後の
足りない、という気持ちのはけ口としての歌の存在が
非常にひりひりとしていて切実で、大変に胸熱である。
蒲公英の句も、この連作の中に入ると
「あの曲ってあのアーティストのあのアルバムの何曲目に入ってたっけ?」
なんていう、正解なんて結局分からないけど楽しい
音楽好きの埒のあかない会話を思わせてよい。


渡部有紀子 あがりやう 10句 ≫読む
永山智郎 硝子へ 10句 ≫読む
西川火尖 デモテープ 10句 ≫読む

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