【週俳5月・6月の俳句を読む】
瑞々しき朝
小林すみれ
復興の仮設店舗の種物屋 広渡敬雄
作品は被災地を詠まれているが、その中でもさりげないこの句は希望があり、温かい。どの句もまだ春になりたての景が迫って来る。作者の眼差しはどこまでもやさしい。復興の願いが詰まった一句。
遠ざかるほど蒲公英のあふれけり 広渡敬雄
黄色の残照。まぶたを閉じるとなおさら色が鮮明になる。色彩の妙。
蒲公英はどこにでも咲いているが、この日はひときわ眼に染みたのだろう。当たり前のことがどんなに大切か、しみじみとした気持ちになる。
黒潮を望む岬の巣箱かな 広渡敬雄
岬と巣箱、ちょっと意外だったが、小さな命を大切にする市井の人々の営みが見えてくる。この句も種物屋に通じて、つんと優しい気持ちにさせてくれる。
牛乳のどこかに語尾のふくらんで 野間幸恵
牛乳を飲んだ時の感覚だろうか。白色が身体に巡り言葉がふくらんできたのだろう。そう言われてみればそのような気になってくるから不思議。
木は森に友が答えのように来る 野間幸恵
確かに木は森にある。この友はきっと大切な一人で、何でも忌憚なく言える仲だと想像してみた。句のリズムも鮮やかで読み手を引きこんでゆく。
Good‐byと鰯の群れを思いけり 野間幸恵
鰯の群れはすごく速く泳ぐ。それを見て、グッバイの文字に見えたのかと思ったが、作者の一瞬のひらめきが言葉になった、そんな感覚的な句なのだろう。
箱の蓋ずらし青葉騒を聞く こしのゆみこ
大切でお気に入りの美しい箱。清々しい青葉の声を何度も蓋をずらして聞いている。今日はどんな話をしているのかな、と。柔らかな感性を思う。
郭公のきこえてきたる眠りかな こしのゆみこ
眠れない夜もある。しかし、今夜は眠りがすっとやって来た。森に近い宿か、あるいは別荘であろうか。健やかな安息。明日に思いを馳せて。
泰山木の花はずれかかった冠 こしのゆみこ
泰山木の花びらは厚くいい香りがする。大きく誇り高く見える木だ。
それが冠と呼応しているのかと思う。気高い女王の冠がはずれかかり、お付の人たちが冷や冷やとしている様を想像すると、なんだか楽しい。
六月の鼻緒に指の開きたる 黒岩徳将
白南風が身体にも鼻緒にもあたっている。梅雨の晴れ間の気持ちの良いひととき。最初は固い鼻緒もやがて指に馴染み、そのうち違和感もなくなってくる。
だんだんに木々のひらけて時鳥 黒岩徳将
今年、時鳥の声を聴いた。この句の通り、森に入るとまさにこんな感じであるが、言葉にするのは難しい。五感を研ぎ澄ました作者。
青林檎服をつかみしまま眠る 黒岩徳将
子どもか、あるいは若い恋人同士としても読める。でもやはり、小さな子どもが遊び疲れてぐったりとしているそんな様子と捉えたい。おだやかな温もりを感じながら、一番信頼できる母親の服を掴んで眠っている子。「青林檎」が少し汗ばんだ子どもの匂いを連想させる。
朝ぐもり開封の前よく振って 小林かんな
よく振っているのはドレッシングか、日焼け止めか。振り忘れると濁った液体が底に沈殿してしまう。リズミカルな動作がおもしろい。本人も楽しんでいる様子で、朝の曇りも吹き飛びそう。
プールから人引き上げるひつじ雲 小林かんな
躍動感がありその動作も若々しい。水を蹴散らしてプールから上がったその人の、日焼けした笑顔まで見えてくる。信頼し合っている二人なのだろう。
海の底見てきた夜の扇風機 小林かんな
なんて瑞々しい句なんだろう。何も言っていないけれど、南の海でスキューバダイビングなどをして、今は快い疲れを感じている、そんな様子が浮かんでくる。たくさんのサンゴ礁や、ふだん見ることのできない美しい魚たちが泳ぐ海。想像がふくらんで、いつかは行ってみたい、見てみたいと思わせてくれる。エアコンではなく、「扇風機」に青春性があり、作者が心地よい暑さを感じているのもわかる。
そこんとこ超合金の蜥蜴の尾 嵯峨根鈴子
蜥蜴と遭遇した時、尾だけが冷たい光を発していたのかもしれない。そこを「超合金」という硬質な言葉で読み取った感性が鋭い。蜥蜴など苦手な人もいるが、もし超合金の蜥蜴ならかっこいいと思うのではないか。
心臓のかゆきところに花ざくろ 嵯峨根鈴子
ドキッとする句。心臓の中身はきっと石榴の花の色なのだと思う。学校の理科室でそんな模型を見た覚えがある。心臓が痛いのではなく、かゆいと感じたところがすごい。
かかとからくるりとむけて夏の月 嵯峨根鈴子
この夏の月はきっと美しいのだろうなあ、と思った。出初めの黄色く大きな月が目の前に浮かんでくる、すごく惹かれた句。「くるりとむけて」の感覚的な若々しい表現が秀逸。。
2016-07-03
【週俳5月・6月の俳句を読む】瑞々しき朝 小林すみれ
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