【句集を読む】
のうのうと暮らす
野口裕句集『のほほんと』の一句
西原天気
著者略歴には「俳句」「川柳」の語はなく、「五七五狂い」とある。
のうのうと夜業半ばに髭当たる 裕
仕事はまだ終わっていないのに、その場を離れ、洗面台へ。ふつうは朝にやるはずの髭剃りを夜に。
たしかに、これは「のうのうと」である。上司がいていなくても(つまりひとりの作業であったとしても)、図太く、世の中の脈絡からはずれ、自分を楽しんでいる。
なお、「髭当たる」は、床屋で「当たってもらう」といった用法に馴染みがある。だから、自分でやる場合も、電気髭剃機よりもカミソリ刃というイメージ。それなら、なおのこと「のうのう」感が強まる。手間をかけずに手っ取り早く、ではなく、石鹼の泡まで立てているイメージ。
この句集、句集名は『のほほんと』なのだが、私には、「のうのうと」した句がおもしろかった。
掲句以外にも、例えば、
耳垢のような瀬戸物春の雨 同
叙情的でしっとりとした季語とは裏腹に、耳垢。のうのうと言い放つ。
前に言った「自分を楽しむ」という意味では、
戻り賀状の文面を読み返す 同
もそうだろうか。自分で書いたものにわざわざ目を通す。すっとぼけ感も加わり、滋味のある句。
ちなみに、私自身、のうのうと暮らしたい、生きたい、と望みはするが、スタイルは自分でどうなるものでもない。
野口裕句集『のほほんと』(2017年12月10日/図書出版まろうど社)
2018-01-28
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