聖地巡礼 エックス山
牧岡真理
エックス山に行った。この山は東京の国分寺市にある雑木林で、その中の小道がX状に交差していたことから「エックス山」と呼ばれるようになったという。中央線の西国分寺駅で降りて、そこから10分ほど歩いた所にあった。
昨夏、福田若之の『自生地』を読んだとき、エックス山の存在を知った。句集にエックス山が登場するのだ。若之には、佐藤文香が編著した『天の川銀河発電所』の出版記念パーティで会った。ちょうど『自生地』を上梓したころで、うれしそうに自著を語っていた。
初読では、俳句をじっくり楽しみ、エックス山のくだりは飛ばして読んだ。いや実はエックス山のページをめくるのが怖かった。黒地に白抜きの文字列が、おどろおどろしい雰囲気をだしていたのだ。さらに老眼なので、光量不足の紙面はとても読み難かった。
エックス山に興味を持ったのは、暮に新宿で開かれた「冬銀河 DINNER SHOW 2017」のステージだった。若之は、小田朋美のピアノに合わせて、エックス山メモランダムを朗読していた。著者本人の語りは、心に響く。このとき、エックス山は俳句界の新たな聖地になった。
年が明けて、炎環の Sara 句会がエックス山を吟行することを聞いて、参加させてもらった。聖地巡礼である。エックス山は、江戸時代の新田開発に伴ってつくられた雑木林で、現在は市が保有する西恋ケ窪緑地という公開された場所だった。
早春の雑木林を山と呼ぶ 鈴木陽子
エックス山は思ったほど広くはなかった。それでも市内最大の平地林だと説明板に書いてある。コナラ、クヌギ、エゴノキなどが植わっていて、木には番号がついていた。おそらくすべての樹木を管理しているのだろう。
建国記念日木の札に木の名前 中嶋憲武
雑木林は自然林ではない。農用や薪炭を目的に造成した人工林である。だから農業という目的を失い、人の手が入らなくなると荒地になる。エックス山では、昭和20~30年の管理方法に倣って木を育て、また伐採しているという。
愛し合ふこと残りたる雪を蹴る 宮本佳世乃
エックス山に『自生地』の表紙写真のような湿原があることを勝手に想像していたが、ため池もない、文字どおりの雑木林だった。エックス山は夢から現実になった。それでも聖地としての座はゆるがない。
聖地だしエックス山の狸のふん 牧岡真理
さて『自生地』の内容にはまったくふれずにきてしまったが、若之の自選句をひとつ紹介して終えたい。
言葉は葉かまきりはざわめきに棲む 福田若之
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