【週俳3月の俳句を読む】
花野が道
高勢祥子
白梅の中抜けてきし鳥のかほ 名取里美
白梅の中を抜けてきたのは自身とも鳥ともとれるけれど、鳥ととりたい。
ある鳥を見つけたとき、それが思いがけなく近い距離にいたから、ただ「鳥」とするのではなくて「鳥のかほ」と表現した。少し違和感のある「鳥のかほ」という言い方によって、その鳥が不思議と作者の心に残ったのだろうということが伝わってくる。
その不思議はどこから来るのだろうと考えたときに、ああそうだ、白梅を抜けてきたからなのだと納得する。
ひざまくら朧あなたの頸動脈 近江文代
「ひざまくら」「朧」「あなたの」「頸動脈」とぽつぽつ呟いているような句だ。
誰かを膝枕をしていてその重量を感じていると、自分の膝への意識は朧に紛れてうすらいでいくのに比例して、「あなたの頸動脈」はリアルを増していく。「頸動脈」という固い語を使うことによって、今触れているものに神経を集中させていることがわかる。恋の句なのだけれど、視線が冷静だ。
馬並めて霧の花野が道なき道 高山れおな
「テレルジ国立公園」と前書きがある内の一句。けれども特に場所の指定がなくても広い草原と空とが想像できる句だ。
「花野が道」という表現が魅力的だ。「花野が道」とはどれだけ広い道なのだろう。
「道」という語からは「一筋の」とか「真っすぐな」とかをイメージするのだが、まだ道もつけられていない地ではそういう概念がいらない、どこもが道でどこもが道でないのだということに気づかせてくれる。
「馬並めて」とあり、馬と一緒にここからどこへ行こうと期待を持って周囲を眺めている姿が見えて来る。
市に溢る中国雑貨かつ残暑 高山れおな
中国雑貨のあのにぎにぎしい赤、それが溢れている。高揚するような、それでいて少し疲れてしまうような景色。「かつ」なので、疲れてしまう方が勝っているのかもしれない。
2018-04-15
【週俳3月の俳句を読む】花野が道 高勢祥子
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