2018-11-18

【週俳10月の俳句を読む】 先入観なく 川嶋健佑

【週俳10月の俳句を読む】
先入観なく

川嶋健佑


簡単ながら週刊俳句10月の作品を読ませていただきます。どなたも面識がなかったので先入観なく読むことができました。


白い部屋林檎ひとくち分の旅  なつはづき

白い部屋が清潔感だけでなく、質感の硬さや音の静かさを感じさせます。林檎は切ってあるものでもよいのでしょうが、この句の場合は一個の林檎に齧りついていてほしいですね。サクッという音が部屋に響きまた無音に帰る。その音の前後でキッチンからテーブル(どこからどこへでもよいのですが)に主人公が移動している。感情や意志が迫ってこないので読者はこの句のよさに出会いに行かないといけません。出会いにいけばとても秀句と気がつきます。

季語が動く問題も指摘されそうなのですが、「白い部屋」という無機質なものに、林檎が出てくるとその香りや部屋の明る気がはっと広がり季語が生きてきます。


遊廓の跡にたばこ屋小鳥来る  市川綿帽子

過去から現在を意識させた「小鳥来る」では

小鳥来る三億年の地層かな 山口遊夢

がありますが、こちらは俗物的なものの変容ですね。実景だろうと想像しますが、俳句の骨法を守って丁寧に作られています。市川さんの句はどれも実際に見たものから着想を得て作られている気がします。


作業着のポケットに本十三夜  今井豊

「作業着」、「ポケットに本」、「十三夜」など細かな状況設定が句の中で直接語られていない人物の性格、仕事、経済状況など余白部分を絞っていきます。言葉の配置に細かな配慮がされているので、私があまり多く語らないほうがよいと思いました。

裕明と花野の端を横切りぬ  今井豊

こちらは故 田中裕明さんのことだろうと思いますが、今井さんやその世代の方が裕明さんについてどのような思いがあるのか直接聞いてみたいなと思いました。


あたらしき靴で来たりし星祭  中岡毅雄
スプーンにかすかな翳り星祭

雲ひとつなく天の川が爛々と輝いている様子が浮かびます。それに対して足元のおニューの靴やスプーンの影(きっと実際の影と心情の影の両方なのでしょう)に作者は注目していきます。そのことにより靄がかかったようにもやもやと句が広がりを持っていきます。靴について「真っ白な靴」など限定していくことができますが、それをせずに動詞を入れることで「来たりし」という行為が句の中心になっていきます。二句目も同様に「影や」とできるところを「翳り」と置く。簡単にしているようで細かなところまで考え尽くされていますね。こんなことをさらりとやっている中岡さんは恐ろしいなと思いました。
細かな着眼点と言葉の使い方が勉強になりました。


俳聖殿にて柿の葉すしの鮭を詠む  馬場龍吉

馬場さんは独自の面白さを追及していますね。俳聖といわれるとだいたい高浜虚子のことを指すと思われますが、俳聖に鮭を献上するのではなくて、鮭の句を献上するなんて恐れ多いこと。俳句だからできる面白さなのでしょう。また「週俳」という固有名詞を使うなども言葉を楽しんでいる感じがします。

念力の角の欠けたる新豆腐  馬場龍吉

は念力の角ってどこ!ってツッコミを入れてしまいました。しかも念力出しているのが新豆腐って。


全句について触れたいところですが、今日はここまでにして、いつか今号の方々とお会いできたら俳句について話したいと思います。

あと、少し宣伝。個人誌「つくえの部屋」を12月に発行します。若手作家を中心にかなり踏み込んだ作家論特集。詳細は12月中にFacebookかTwitterでお知らせします。

フェイスブックhttps://www.facebook.com/kesuke.kawasima
ツイッターhttps://twitter.com/tobtob_panda?s=09



なつはづき 自転車で来る 10 読む
市川綿帽子 横浜 10 読む
今井  いぶかしき秋 10句 読む
中岡毅雄 底 紅 10句 読む
ウラハイ  馬場龍吉 豊の秋 読む

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