2018-12-16

【週俳11月の俳句を読む】心のありか 小林すみれ

【週俳11月の俳句を読む】
心のありか

小林すみれ


装置より伸びる両腕秋の昼   中田美子

この装置とはなんだろう。いろいろと想像したが特別なものではなく、季節を感じることのできる心の装置なのではないか。今年の夏は酷暑であったので、秋への期待は一入だったことだろう。秋への喜びが両腕に、総身にあふれている。

タクシーに乗つて大きな紅葉山   中田美子

急に思い立って一人タクシーに乗ったのか、あるいは気心の知れた仲間と乗り合わせ、紅葉狩に繰り出したのか。どちらにしても、「大きな」という表現が紅葉山に到着するまでの高揚感をあらわしていて、こちらまで浮き浮きした気分になる。都会人の束の間の休息。

金木犀犬の不在に気付いたる   中田美子

木犀はある日を境に香り出す。とてもさりげない匂い。あー秋が来たのだと思える。近頃は家の中で犬を飼うのが主流だが、いつも通る道に犬小屋のある家があるのだろう。木犀の匂いに誘われ、そういえば最近犬を見かけないな、鳴き声を聞いていないな、と思い出したのだ。木犀の匂いが犬の不在に気づかせてくれた。匂いって不思議。突然心の奥にあったものを表出させるから。

ゆきひらに冬のはじめの水しづまる   大塚凱

ひらがなが柔らかく、繊細な句。鍋に水を入れる。昨日までとは何かが違う。そんな細やかな感覚を持ったのだろう。季節外れに暑い日があっても、その暑さはやはり数か月前とは違う。万物に対して敏感でありたい。「しづまる」の字余りが初冬の鼓動のように聞こえる。

枯萩の透けてくるまで考へる   大塚凱

気が付けばもうこんな時間。いつの間にかまわりに人がいなくなった。今何時だろう、と我に返った。何かに没頭しているとこんなことがある。「枯萩の透けてくるまで」という比喩に実感がある。きっと考えすぎて頭が痛くなってしまったかも。

セーターに松葉が刺さる帰らねば   大塚凱

想像がふくらむ句。小春日和の一日、女友達と海に来た。今日は片思いの彼女に告白をするつもりで海に誘った。しかしなかなか思い通りにはいかない。間が持てず、食事の後に二人分の缶コーヒーを買った、が、それも飲み干してしまった。冬の日暮れは早い。風も出て来た。帰りが遅くなって彼女に風邪を引かせてはいけない。いろいろと考えすぎて、伝えたいとっておきの一言が出てこない。そんな自分のふがいなさに、セーターに刺さった松葉がことさら痛い。


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大塚 凱 真空地帯 10句 ≫読む

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