2019-01-27

【週俳12月の俳句を読む】絵本の外 照屋眞理子

【週俳12月の俳句を読む】
絵本の外

照屋眞理子


飛行機も車も喋り絵本冬   相子智恵

「小さい頃は神様がいて……」と荒井由実が歌った「小さい頃」というのは、まだ人間ではなっかた頃をいうのだろう。

まだ人間ではないものの周りでは、ありとあらゆるものが喋っていた。それは絵本の中だけに限らない。

まだ人間ではないものは、そのままでいたいものだとも思う。
 
だが、そのような存在のおかげで、否応なく親という人間になってしまった側の存在は、そうはいかない。

子育てというのは、人間以前の存在を人間に仕立て上げ、社会に漕ぎ出す船に乗ることが出来るようにしてやらなければならないからだ。

飛行機や車が喋るのは、絵本の中だけのことにしておいてもらわなければ……、そう思う。

子育てということを経験したことがないものには、それがどんな体験なのか、よく解らないのだが、この句の下五、「絵本冬」という、一切の説明を省いた着地の仕方に、子育てという一見楽しげな時間の中に混じる、名付けようのない寂しさ(に似たもの)を感じてしまった。


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