【週俳12月の俳句を読む】
その時彼はかもめを聞いたか
小林かんな
12月の俳句を1月に読めとのお計らい。「貫く棒のごとく」時間の続く世界において、これは私へのひとつのお年玉かもしれない。
直に置かれる風呂敷包み 樋口由紀子
日本文化は包む文化で、剥き出しをよしとしない。「風呂敷」はその精神の一つの極であって、押しいただくべき中身が包まれているはずだ。それが卓なり、台なり、しかるべきクッションを介さず直に置かれるという。差し迫っているのか、ざっくばらんなのか、ハプニングなのか。この後の展開が何とも気になる。
ふと見ると、「直」と「置く」の字形は8割方同じ。これは偶然なのでしょうか。
堡塁に深き砲眼ふゆかもめ 花谷清
「堡塁」の「砲眼」を挟んで、どんな時代にどんな人々が対峙したのだろう。「砲眼」の出番は戦時だ。攻勢か。劣勢か。砲眼を突き抜けた砲弾が兵士の生死と家族の運命、そして歴史を左右した。戦争の途絶えた世に残る戦争関連史跡は無口であると同時に、雄弁だ。冬かもめが飛ぶそこは海辺の要塞かもしれない。
「冬かもめ」が味わい深い。撃つ側の兵士、撃たれる側の兵士の耳にかもめの声は届いただろうか。声に出して読むと、「ほ・ふ・ほ・ふ」とハ行の繰り返しがさり気なく口に残る。
一方、「綿コート革のコートの列横切る」はとてもドライ。質感の違うコートの交差。そして、複数の革のコートがおそらくただ一着の綿コートのせいで少し滞るということの面白さ。
第608号 2018年12月16日
■花谷 清 おとぎ話 10句 ≫読む
第609号 2018年12月23日
■樋口由紀子 清潔な靴 10句 ≫読む
■浅沼 璞 冬天十韻 10句 ≫読む
■相子智恵 短 日 10句 ≫読む
2019-01-20
【週俳12月の俳句を読む】その時彼はかもめを聞いたか 小林かんな
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