2019-05-12

【週俳4月の俳句を読む】春のからだ 八上桐子

【週俳4月の俳句を読む】
春のからだ

八上桐子



春寒の蠟燭点せば声変はる  金丸和代

暦の上では夏だというのに、今年はまだ春寒のような日もちらほら。特に、風。春の装いに風がしみる。蠟燭の火にとっては、人の息も風。点しながら息を詰めるので、やや小声になる。小さな風が大きな風に溶け、炎のぬくもりが春のあたたかさへと広がってゆく。


フリージア働かぬ日の君の耳たぶ  金丸和代

働かぬ日の君は、好ましいのか否か。フリージアは甘くフルーティに、しっかり強く香る。う~~ん、鬱陶しい方に一票。「ちょっと、バナナの皮ぐらい捨ててよ〜」。聞こえてるくせに、もうっ!と、やたら目につく耳たぶ。けれど、フリージア。俳人は、ぼやきもうつくしい。


虚子の忌の釦の多き昇降機  常原 拓

ボタンが多いということは、高層階へ上ることのできるエレベーター。非日常な高さへと上昇する感覚は、亡き人へ思いを寄せることとどこか通じる。ましてや、俳人にとっての虚子。からだから一瞬浮遊したたましいが、遠いとおいたましいに触れそうな。


二ン月のボディビルダー割れて来し  佐藤りえ

二ン月とボディビルが絶妙。「ニン・ガツ」の音の響きの力強さ。ポーズを決める際の掛け声にしてもいいだろう。縦書きの字面など、腕を捻り上げている姿に見えてくるではないか。バッキバキの筋肉が、今まさに盛り上がってくる。古風なのにマッチョで、ギャップ萌えしてしまった。




金丸和代 囲まれて 10句 読む
626号 2019421
常原  贖罪 10句 読む  
佐藤りえ #春 10句 読む 

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