2019-09-15

【週俳8月の俳句を読む】ものの表、ものの奥 藤本夕衣

【週俳8月の俳句を読む】
ものの表、ものの奥

藤本夕衣


旋盤の金屑天の川になる  倉田有希

小鳥来る鍍金工場の明り窓  同

一句目、切断された金属の無数の破片は、工場を包む闇のその奥にある無数の星と共鳴する。二句目、薄暗い工場に小さくあけられた明り取りの窓は、小鳥たちのくる空を映している。どちらの句も、金属を加工する工場が舞台で、ごつごつとした機械に、金属の板、金具や工具といった無機質なものばかりが想像される。けれど、無機質なものが、だからといって無表情なわけではない。金属板を切断する音は、悲鳴のようにも聞こえるし、切断された後の金屑は、命の欠片のようにみえるかもしれない。そう受け取るからこそ、薄暗い工場の窓に小鳥の気配を感じる。「俳句」という詩型と向き合い、ものの表にある表情を見逃さず、ものの奥を捉える。こうした句に出会うと、私は、普段、いったいどれだけのものを見落としているのだろう、とはっとさせられる。


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