【週俳9月の俳句を読む】
体感と感動
曾根 毅
アルゼチン・タンゴ窓辺に置く桔梗 五十嵐秀彦
桔梗を眺めつつ、アルゼンチン・タンゴに気分を委ねている。
その青みを帯びた紫の色彩が、華やかなダンスや、ロマンティックでメランコリックな主旋律のイメージに重なってる。
また、星のような鋭角を持つ花びらの形は、鋭いスタッカートを思わせる。
音楽に浸る時間、窓辺の景色、人物の動きなどがどこか回想的に見えてくるのは、「窓辺に置く」という言葉のイメージの効果だろう。
句跨りのリズムもタンゴによく合っていて、味わい深い句。
やさしくて指をしたたるレモン汁 クズウジュンイチ
上五の「やさしくて」は、原因ではなく、そのような気持ちに心が満たされている状態を表している。
例えば、気の置けない仲間や恋人との食卓で、レモンを絞る情景を思い浮かべてみる。
指先の繊細な感覚が、果汁に触れて覚醒するような、やさしさを現前のものと受け止める束の間の気分に通じている。
手のぬくもりや震え、鳥肌、涙の冷たい感覚など、体感は感動と密接な関係にあることを思う。
第646号 2019年9月8日
■クズウジュンイチ 杉 檜 10句 ≫読む
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第648号2019年9月22日
■鈴木健司 蓑虫の不在 10句 ≫読む
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