2019-11-03

【週俳9月の俳句を読む】体感と感動 曾根毅

【週俳9月の俳句を読む】
体感と感動

曾根 毅



アルゼチン・タンゴ窓辺に置く桔梗  五十嵐秀彦

桔梗を眺めつつ、アルゼンチン・タンゴに気分を委ねている。

その青みを帯びた紫の色彩が、華やかなダンスや、ロマンティックでメランコリックな主旋律のイメージに重なってる。

また、星のような鋭角を持つ花びらの形は、鋭いスタッカートを思わせる。

音楽に浸る時間、窓辺の景色、人物の動きなどがどこか回想的に見えてくるのは、「窓辺に置く」という言葉のイメージの効果だろう。

句跨りのリズムもタンゴによく合っていて、味わい深い句。


やさしくて指をしたたるレモン汁  クズウジュンイチ

上五の「やさしくて」は、原因ではなく、そのような気持ちに心が満たされている状態を表している。

例えば、気の置けない仲間や恋人との食卓で、レモンを絞る情景を思い浮かべてみる。
指先の繊細な感覚が、果汁に触れて覚醒するような、やさしさを現前のものと受け止める束の間の気分に通じている。

手のぬくもりや震え、鳥肌、涙の冷たい感覚など、体感は感動と密接な関係にあることを思う。


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