2020-09-13

中嶋憲武✕西原天気の音楽千夜一夜 ポール・マッカートニー&ウイングス「ソイリー」

中嶋憲武✕西原天気の音楽千夜一夜
ポール・マッカートニー&ウイングス「ソイリー」


憲武●ライブ盤の愛聴盤、僕も便乗しちゃいました。僕の場合はやはりと言うか、またか、と言うかポール・マッカートニー&ウイングスの「ウイングス・オーヴァー・アメリカ」から「ソイリー」です。


憲武●このライブ盤、1976年12月発売なんですが3枚組で当時ね、6,000円くらいしたと思うんですよ。当時の邦題は「ウイングス U.S.Aライブ‼︎」でした。1976年5月から6月にかけてのアメリカ公演から収録されてます。アルバム発表の時期的には、「ヴィーナス・アンド・マース」と「スピード・オブ・サウンド」の頃ですね。

天気●1枚2,000円見当。高いですよね。そのせいもあって邦盤は昔も今もほとんど買いません。

憲武●この「ソイリー」って曲ですが、アンコールの曲で、それが当時まだ誰も知らないような曲だったんです。ライブ盤の歌詞カード見ると、歌詞が聞き取り不可能のため、歌詞を載せられないなんて書いてあったんです。soily って単語は旺文社の辞書にも載ってなかった。soil(土、土地、汚す)の形容詞かななんて思ってました。まあそんなイメージで聞いてたんですね。

天気●土っぽい!って曲名?

憲武●うーん、「土くさっ!」って感じでしょうか。で、ところが21世紀になってリマスター盤が出て歌詞もちゃんと載ってまして、歌詞の内容は意味不明でした。というかあまり意味に重きを置いてない詞だったんです。印象的な the cat in satin trousers said it's oily.は「サテンのズボンを穿いた猫が、油っぽいと言った」と直訳されてるんですが、soily と oilyで韻を踏んで、あるイメージを持たせようとしてるのかなと思いました。

天気●キャットフードに文句言ってるみたいな歌詞ですね。

憲武●猫がね。

天気●うんうん。

憲武●ウイングスって、ポールとリンダとデニー・レイン以外のメンバーはめまぐるしく変わって、このライブのドラム、ジョー・イングリッシュとギター、ジミー・マカロックというメンバーがベストなんじゃないかと思いますね。特にジミー・マカロックは、「ヴィーナス・アンド・マース」の中で「メディシン・ジャー」という反ドラッグの自作を歌ってます。それでこのソイリーですが、ポールのシャウトとジミー・マカロックのギターが圧巻で、それだけでもうね、いいんですよ。

天気●いわゆるハードなロックンロールですね。

憲武●ジミー・マカロックはこの時23歳で、この3年後に薬物の過剰摂取で夭折するんですが、やんちゃだったようで、フィリップ・ノーマンの著書『Paul McCartney the Life』(KADOKAWA 2017)によれば、このツアーが始まる前の2月のヨーロッパツアーの最中に、ホテルのバーで酔って、俳優のデビッド・キャシディと乱闘になって指を骨折して、アメリカツアーへの出発が1ヶ月伸びたなんてエピソードがあります。

天気●ギタリストが指折っちゃあいけないですね。

憲武●まったくです。ギターが弾けなくなっての1ヶ月延期ですからね。このソイリーですが、youtube でいくつかのバージョンを観ることが出来ますが、1972年のベルリンのライブのバージョンは、「ゲット・バック」みたいです。リズムが表に出てきてる。多分かなり前に書かれてた曲なんですが、遂にオリジナルアルバムに入ることはなくて、このライブ盤とシングル「maybe I'm amazed」のB面でのみ聴くことができるんですね。ほぼ新曲をライブのアンコールに持ってきて、圧巻の演奏をするってちょっと考えられないんですが、それをやっちゃう人がポール・マッカートニーという人なんですね。

天気●ライブ用で、アルバムには収録せず、ということですか。

憲武●最近知ったんですが、スタジオ録音もしてるんです。このライブのテイクがよかったので、そういうことになってると思います。ポールは、90歳になっても車椅子でライブやるなんて言ってますから、まだまだ目が離せません。

天気●椅子じゃダメなんですね。なんで車椅子なんだろう。動き回りたいということですかね?

憲武●これは、ポール・デュ・ノイヤーの著書『ポール・マッカートニー 告白』(DU BOOKS 2016)の中でインタビューに答えて言ってることなんですが、「毎晩2時間のワークアウトをやってるようなものだから、ジョギングをする必要もない」という発言と合わせて考えると、ポールにとってステージというのは、動き続ける場所っていうイメージがあるんじゃないでしょうか。ちょっと引用しますと、「ぼくに関する限り、最後のツアーなんてものは絶対にありえない」「でもぼくは一度も、これが最後のツアーになると思ったことはない。いつも、90歳になっても車椅子でステージに立ってるんじゃないかと言ってきた。そしてもしかするとその予言は、的中するかもしれないんだ。恐ろしい話だけど」と言ってます。こう発言するってことは、必ずそうなるんでしょうね。生きていればの話ですけど。


(最終回まで、あと839夜)
(次回は西原天気の推薦曲)

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