2020-12-27

【2020年週俳のオススメ記事 4-6月】春なのに 村田 篠

【2020年週俳のオススメ記事 4-6月】
春なのに

村田 篠

4月と言えば、7日に七都道府県に緊急事態宣言が出て、16日にそれが全国に拡大された頃でした。それは5月の末に解除されて、6月は外出自粛が少し緩んだ時期ですが、世間もニュースも変わらずコロナ一色でした(今もそれは続いていますが)。

この時期は、まず第688号第689号の「崎原風子読書会」が労作でした。アルゼンチン移民の俳人・崎原風子の俳句を鑑賞するという試みです。風土も生活も日本とは異なるラテンアメリカでつくられる俳句の言葉や、沖縄出身の風子の俳句の背景として、アルゼンチンと同等に沖縄を読む鑑賞など、「俳句と風土」について考える機会になる、骨太で興味深い特集でした。

〈天皇の白髪にこそ夏の月〉という宇多喜代子さんの句を論じた第682号の安田中彦さんの記事「天皇の白髪」も印象に残っています。いくつかのほかの方々の読みを紹介しながら、ご自分の読みを展開されていますが、「天皇」をどう読むかで鑑賞が大きく変わることを述べられています。一句をどう読むかはもちろん読者の自由ですが、この句はそこを迂回して読むことはできないし、「天皇」という言葉に対するスタンスを示すことなく鑑賞することはできない、という意味で、とても考えさせられる俳論でした。

そしてこの時期、西村麒麟さんの「僕の愛する俳人」シリーズが3月末から始まりました。「俳論と言うよりは、俳人や俳句そのものが主人公であるように鑑賞より紹介を目的に書き進めるつもりです。一句でも多く、その魅力を紹介出来れば幸いです」というスタンスで、読みやすく、親しみやすく書かれています。第675号から第678号まで4回連続で掲載されて、そこで中断していますが、ぜひ再開して欲しいと思います。

小誌の上田信治「2019 落選展を読む」もこの時期です(第676号第678号第679号第684号)。信治さんはわけあって小誌のプラットフォームにログインできなくなり(詳細は、めでたく復帰が叶った第712号の「後記」をご覧下さい)、記事での登場も回数が減っていましたので、今年出会える貴重な記事になっています。

この期間に10句作品を寄せて下さったのは、第679号に安里琉太さん、第685号に安田中彦さん、樋野菜々子さん、第686号に千野千佳さんでした。アンソロジーでもご覧になれますが、10句作品として再度お楽しみいただければ、と思います。俳句作品は少なめでしたが、「句集を読む」はほぼ毎号掲載されています。

この3ヶ月は、ウイルス対策とはいえ、国全体が一斉に外出自粛を強いられるという大変な時期でした。この頃のようすを窺うのに案外参考になるのは「後記」を読むことではないかと思います。さらに年月を経ると、世の中はこんなふうだったのか、こんなことを考えていたのか、と振り返るのに、多少は役に立つものになるかもしれないと思います。改めて読み返してみると、信治さんの「後記」も読みたかったなあ、と少し残念ではありますが。

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