【句集を読む】
旋律
豊里友行『宇宙の音符』を読む
小林苑を
夢を漕ぐ
Rowing a dream 豊里友行(以下同)
どれを選べばいいの、と『宇宙の音符』をいったん閉じる。音符は煌めき飛び交い飛び散り、さまざまな音色を奏でてくれる。優劣も好き嫌いもつけられない。とりあえず表紙を見てよ、この表紙のような句群なの。楽しくなるでしょ。さまざまな音色の背景には厳しい沖縄の現実が、怒りが、横たわっているのだ。だけど、それでも、とても明るい。
沖縄の海を思う。あのブルー。人を思う。あの笑顔。初めて乗ったタクシーの運転手氏は昔からの知り合いみたいに話した。仕事で出会った人は時間があるなら付き合うよと言ってくれた。初めてなのに隠さない、開けっ広げ。『宇宙の音符』はあの沖縄だ。
2015年から2020年まで時間を追いながら全11章。最初の章のタイトルは「夢を漕ぐ」。この章は一句のみで、それが掲句(笑)。この自由律以外にも、スタイルの違う句がさまざまに並ぶのだけれど、この最初の一句こそが句集の主旋律だと思う。装丁にも、挿画にも、一句一句につけられた英訳にも流れる。
はなざかりのしままるごと遺品なり
Flowers bloom extensively, all of the island relics
さらに《青空の画鋲のような戦闘機》《あふりかまいまいつぶしてあるく老婆》《君は夕焼けに滅ぼされてゆくよ》等の哀切にも主旋律は流れる。
大好きな4章「がっこうでおしえない」はなんと言ってもタイトルが良い。《口説き方わからない埴輪になっちゃた》《かばをみるかばにみられる夏休み》《首のない平和な冷凍庫のチキン》《森も海も奪うこの手はなんですか》。それらはとても大事なこと。
選ぶのがほんとに難しいので、2章「エキストラ」の最後の句で了ることにする。この章は総出演って感じなのだが、なにが総出演かを説明すると長くなるので省略。興味のある方は見てください、読んでください。
月も踊れ
花も踊れ 宇宙の音符よ
日も踊れ
Moon, dance/Flowers, dance/Sun, dance note of universe
〔註〕「踊れ」にはすべて「モーレ」の振仮名。
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