【週俳12月・1月の俳句を読む】
響きあう一句と一句
小久保佳世子
◆藤田俊 はく
手袋のままで証明写真撮る 藤田俊
すそ広のズボン両手でもつミカン 同
どちらの句も手の描写が際立った人物画を思わせます。
一句目のモデルは証明写真用ということもありやや固い表情をしています。手袋は内面を隠したいモデルの心情の象徴のようでもあります。
二句目は絵画のためにポーズをとるモデルのイメージです。すそ広のズボンによって三角形の安定した人物画の構図が得られ、その中心にミカンの橙色を支える両手がかたち良く納まっています。
◆箱森裕美 天から手
毛布くるまり海底となるこころ 箱森裕美
煮凝りの中に冷たき王都かな 同
句の着想はどこか似ていて、それは閉ざされた空間への親しみでしょうか。
一句目は、寝具と海繋がりで 水枕ガバリと寒い海がある 西東三鬼 を想起してしまいますが、この作者の海には温もりがあり母なる豊穣を感じます。
二句目は幽閉された城が見えてくるようです。煮凝りのあの複雑な色合いと感触は確かに幻の王都への想像を掻き立てられます。
◆木田智美 ひろく凍つ
鳥かごにパーカーかぶせたらおやすみ 木田智美
雪色の冬毛のじかんみじかいね 同
二句とも童心が書いた俳句のようです。
一句目は、小川洋子の『ことり』の一場面を思い出しました。小鳥の言葉を話す兄とその弟の物語。その中に兄のポーポー語(鳥の言葉)の「おやすみ」は弟が最も愛した言葉だというくだりがあってそのシーンの持つ静けさと懐かしさが一句となって結晶したようです。
二句目、ここには動物の気持ちが分かる作者がいます。「みじかいね」と語り合う相手は人間ではないかもしれません。或いは自らの子ども心と語り合っているのでしょうか。
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