2021-11-28

【中嶋憲武✕西原天気の音楽千夜一夜】中森明菜「東京ローズ」

【中嶋憲武✕西原天気の音楽千夜一夜】
中森明菜「東京ローズ」


憲武●前回、エルビス・プレスリーでしたね。そのプレスリーの曲に「ポケットが虹でいっぱい」という曲がありまして、それをYMOが「テクノドン」というアルバムでカバーしてます。そのYMOの曲に「ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー」という曲がありまして、その歌詞の中に「and Tokyo Rose is on the phone」というフレーズが出てきます。からの中森明菜で「東京ローズ」。

 

憲武●この曲は32枚目のシングルとして1995年11月1日にリリースされて、オリコンチャートの最高順位が32位でした。32枚目のシングルが32位です。中森明菜は30歳でした。作詞は中森明菜と上澤津孝、作曲はMASAKI。編曲はストレイ・キャッツのブライアン・セッツァーです。

天気●ブライアン・セッツァー/ストレイ・キャッツって、実際のセールスをはるかにしのいで、スタイルとして流行した感。中森明菜にもストレイ・キャッツ時代があったとは! ぜんぜん知りまへなんだ。というか、中森明菜氏について、あんまり知らないんだけどね。

憲武●それはわかります。この曲、ロカビリーですね。タイトルになっている東京ローズって、第二次世界大戦中、南太平洋に展開しているアメリカ兵に向けてのNHKの20分ほどのディスクジョッキー番組「ゼロ・アワー」で、このDJの女性アナウンサーを、アメリカ兵がこう呼んだらしいですよ。セクシーな声で若い米兵に人気だったようです。この番組の狙いは、前線のアメリカ兵にホームシックを起こさせるのが目的だったと言われてます。対米宣伝工作のための国策番組ですね。昔から国家の犬のような放送局なんですね。

天気●まわりくどい作戦ですよね。むしろ元気が出て(娯楽のちから)、逆効果だったんじゃないかと。

憲武●そうですよね。実際アメリカ兵は喜んでいたようですよ。この歌詞、そういう歴史的背景はなくて、東京ローズの文字の並びのイメージから発想されているようです。

天気●ヴァン・ダイク・パークスの「Tokyo Rose」は、音がオリエンタリズムばりばりです。戦時下の東京ローズをイメージした物語になっているみたい。マッカーサーという名前も登場します。

憲武●うーん、このチャンプルー感、細野晴臣に通うものがあります。

天気●ヴァン・ダイク・パークスは「はっぴいえんど」の最後のアルバムのプロデューサーですし、このアルバムには、たしか細野晴臣も参加してたような。

憲武●ヴァン・ダイク・パークスのアルバムは「ソング・サイクル」しか持ってないので、なんとも言えません。細野晴臣は中森明菜の「禁区」を作曲してますが、この曲はYMOの「過激な淑女」という曲に派生しています。曲の発想の源は「村の鍛冶屋」だそうです。中森明菜はいま、行方不明の状態らしいですが、これまでのゴシップや推測記事などから思うに、歌うことは好きだけど、それを発表するシステムとか、まつわる人間関係とかには、上手く乗っていけないタイプなんじゃないかと思います。歌詞にある通り「上手に生きてく 女にはなれない」という事でしょうか。そっとしておいてほしいです。 


(最終回まで、あと781夜)

0 comments: