【中嶋憲武✕西原天気の音楽千夜一夜】
イエロー・マジック・オーケストラ「東風」
憲武●春の季語で「東風」というのがありますね。俳句を始めて数年経ちますが今でもつい「とんぷう」と読んでしまったりします。という訳で、イエロー・マジック・オーケストラで「東風(tong poo)」。
憲武●アルバム「イエロー・マジック・オーケストラ」(1978年)に収録されていますが、この「イエロー・マジック・オーケストラ」というアルバム、こちらの本邦盤とUS盤が存在します。アレンジが微妙に違っていて、US盤には中ほどに吉田美奈子のセクシーヴォーカルがフィーチャーされてます。"you know about me?"で始まる矢野顕子による歌詞は、超越的な存在について歌ってるんじゃないかと思います。ぼく個人としてはUS盤が好きですね。
天気●YMOって、耳に入ってくるから知ってはいますが、1枚も持ったことも聴いたこともないんです。特殊な事情がありまして、むかしある大規模商業施設の立ち上げイベントで末端の仕事をしているとき、一日中、「ライディーン」が流れてたんです。繰り返し繰り返し。大音量で。それでもう、アレルギー。
憲武●うひゃあ、それはもうアレルギーになり得る出会いですね。
天気●それと、クラフトワークを聴いていたことも、YMOを聴かなかった一因かもしれません。聴く一因にもなり得るんだけど、そのへんはなりゆきとか当時の気分ですね。
憲武●若者は気分に左右されます。この動画は、実に歴史的な動画で、1979年8月4日のロサンジェルスのグリーク・シアターでチューブスのオープニング・アクトとして演奏し、異例なことなんですが、アンコールに応えてこの曲を演奏した時の動画なんです。
天気●ミュージックマンのベースの音、いいですね。
憲武●ええ、いいんです。なんといっても細野晴臣ですから。パーソネルは、細野晴臣、坂本龍一、高橋幸宏、松武秀樹、渡辺香津美、矢野顕子です。司会はチューブスのマネージャー、リッキー・ファーです。その時のことは「OMIYAGE」という写真集によると、「全曲終了。一瞬のどよめきの後、会場は爆発せんばかりの歓声と拍手につつまれた。司会者が登場。『みんな、ほんとうにまだ"イエロー"の音楽が欲しいのかい?』『イェーッ!』『ようし、それなら、あと5分だけ時間をあげよう』。スペシャルゲストという名目はあったにせよ、イエローはロスで前座として前代未聞のアンコールをやってのけたのである」と雑誌「GORO」(1979年9月27日号)からの記事を引用してます。
天気●米国で大ウケしたんですね。
憲武●米国でも英国でも大ウケです。この場合は米国ですが。今となっては、ソラリゼーション処理はやめて欲しかったですね。演奏中の表情などが見にくくなってしまいますもんで。
天気●これ、なんでやるんですかね? サイケ? むかしNHKで、はっぴいえんどが演奏したときも、これやってた。風体がむさ苦しいので、そのままでは見せられないと思ったのか。
憲武●当時は斬新な映像表現と捉えられていたんでしょうか。東大卒の優秀な、ぴかぴかでつるつるの心のディレクターによって。失礼しました。姫野カオルコの「彼女は頭が悪いから」を読んでいたものですから。えー、この曲の圧巻は間奏開けの坂本龍一のキーボードのプレイだと思います。この動画だと、渡辺香津美のギター・ソロが終わってからの坂本龍一のキーボードです。どこまでも上昇して行くようなアッパーな気分になります。
天気●はい、シンセの音、いいですね。プロフェット?
憲武●そうですね。プロフェット5です。この動画には、パフュームのダンスとコラボレーションさせた動画もあって、うまくシンクロしてるんですよね。
天気●おお、労作だ。好きな人がいるんですね。しかしまあ、日本のテクノは、YMOに始まって、パフュームで花開いたわけですから、正統なコラボです。
憲武●この高橋幸宏のドラム、音色になんか処理が施してあるのか、パッと聴くと「U.T」の時のようなドラミングに聴こえたりするんです。
天気●シンセ・ドラムの音は、この頃のテクノの主要成分でしたね。「U.T」って知らなくて調べたら、もっとあと。1981年なんですね。
憲武●はい。「BGM」というアルバムの7曲目です。ま、それだけ1979年のイエロー・マジック・オーケストラは勢いがあったということでしょうか。
(最終回まで、あと769夜)
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