りん句る100・その3
鈴木茂雄+野間幸恵
201 魔女の棲む森には昏き榠樝かな S
202 日暮れには終の棲家というチャンネル N
203 かなしみの旦暮にさくら紅葉かな S
204 液体を組み立てている暗喩かな N
205 竹の春から立て付けのよき仕組み S
206 蒼白く飛び立つ鶴を見送れり N
207 日々くもるガラスは白に追いつけず S
208 追いついて澄みゆく玉葱の時間 N
209 コロナ時も川はしづかにうつろひて S
210 静粛にぺダンチックに葉巻する N
211 どこまでも漫画チックに鳥威し S
212 疑問符でゼロになりたい七面鳥 N
213 ドタキャンになりたる釣瓶落としかな S
214 落葉して溺れる夢の藁ひとつ N
215 集まれば藁塚となる日和かな S
216 いま言った和音のかたちパウロ2世 N
217 言語その行きかえりして紅葉づれり S
218 断食の刻一刻と帰る波 N
219 つぎつぎと波押し寄せる昼寝覚 S
220 北窓の覚醒グレタガルボかな N
221 どの窓も磁場の話しを聞いている S
222 龍頭巻く巻いて東方見聞録 N
223 竜胆にうす紫の行方かな S
224 木葉木菟ねばる水辺を方便に N
225 便箋に追伸のごと秋の蝶 S
226 ことごとく東へむかう水の鈍痛 N
227 朝顔に水をやる子が咲いてゐる S
228 もつれあう猪鹿蝶に朝が来る N
229 夏の蝶きりりと螺子を巻きにけり S
230 巻き寿司やひたひたと豊後水道 N
231 マクドしてひたすら午後を司る S
232 午後3時三隣亡のその調子 N
233 パンのやう午睡のやうにフランス語 S
234 牡蠣の海いつかの語尾の香りして N
235 香水の空瓶となるモンロー忌 S
236 空腹の君は夜通し助動詞で N
237 冷房や青き尾を曳き人動く S
238 説教を風が盗んで青すすき N
239 鳥葬の国は色なき風の中 S
240 じりじりと国旗は似たりよったりで N
241 雉子歩む国鳥ですといふやうに S
242 環境は鳥の声で計るらしい N
243 日時計に帰る約束してしまふ S
244 秒針がなくて明日が暗くなる N
245 暗くした方がいいからカンナになる S
246 土砂降りで唐変木な鉋かな N
247 アラビアのロレンスといふ熱砂かな S
248 SORA抱いている熱気球の夜だもの N
249 ときどきへ夜遊びをする薬指 S
250 KIGO・KIGOUぽつんと吟遊詩人かな N
251 ツンデレの秋田小町となりにけり S
252 おとなりの不在は奥の細道で N
253 その道を越したる後の祭りかな S
254 着信のあとさき蜻蛉日記かな N
255 新聞をくしやくしやにして海に出る S
256 野の風にショパンの椅子を聞いている N
257 黄昏が罠を仕掛ける花野かな S
258 時差のように花のように猫がいる N
259 秋燕見上げる駅の時刻表 S
260 さか上がり言語は思想を具象する N
261 Sodasoda 相思から飛び込めり S
262 水を研ぐ未確認飛行物体 N
263 勿体ない勿体ないと藪からし S
264 ナイトにはなれない君の日記帳 N
265 どうしても君子は蚊帳の外にゐる S
266 クリムトの夜の帳を訝しむ N
267 紅葉且つ散る言の葉が牙を剥く S
268 はじまりの歌がはじまる散歩道 N
269 森が歩いていたころの火が恋し S
270 森君のオルゴールには椋鳥が N
271 箱入りのこいまり箱入りのとりかぶと S
272 テトリスに告ぐ私は匣である N
273 JKはSNSの筥の中 S
274 漆黒にねむる中尊寺金色堂 N
275 魔女が鍋煮る金秋の森深く S
276 くちもとが覚束なくて深くする N
277 もともとは海の色だが爪に塗る S
278 あんなにも瀬戸内海でいたためし N
279 イタ飯にいたたまれなく秋の歌 S
280 輪になって液体となる秋葉原 N
281 うす紅葉流れが早くなるところ S
282 枯葉散るビル・エヴァンスの指先へ N
283 黄昏を垂らしてビルが立つてゐる S
284 賑わいや神話の隅に黄金虫 N
285 御器齧隅からこんな真ん中に S
286 仏像の後から中から清海波 N
287 時間から鯨が跳ねて電車かな S
288 さかな跳ね月のかたちを変えるのね N
289 ゴッホから聞く向日葵の変身譚 S
290 向き不向きながら植物筋肉で N
291 聞きながら話の種を蒔いてゐる S
292 草本の話ついでにプロポーズ N
293 ひつそりはどこにでもある草の花 S
294 花柄の河馬で汗をかいている N
295 人柄で言葉の絵の具絞りだす S
296 浮世絵に境目がある Coca-Cora N
297 国境に置き忘れたる檸檬かな S
298 正確なシンメトリーを国語する N
299 明けぬ夜の窓より遠野物語 S
300 遠近がなくて豆腐は MOMENかな N
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