【中嶋憲武✕西原天気の音楽千夜一夜】
ミシェル・ルグラン「おもいでの夏」
憲武●夏は何かと、思い出の多い季節とも言えそうです。そういう訳でミシェル・ルグラン「おもいでの夏」。
憲武●うーん、美しい。聞いた事がある、と、思われた方も多いかもしれません。この曲は「おもいでの夏(The summer of '42)」(1971)という映画の主題曲です。ミシェル・ルグランは、監督から曲を作るために五日間を与えられて、数時間で書いてしまったようです。
天気●同じメロディ型を積み重ねているところなど、なるほど早書きという感じです。シンプルで美しく仕上がってますね。
憲武●曲の世界に引き込まれる魅力があります。せつない感じもありますし。映画は、15才の少年の年上の女性に対する憧れを描いた、ひと夏の経験モノで、このジャンルの一つの流れを作った先駆的な作品だと思います。
天気●戦時中、ナンタケット島での出来事なんですね。観光地で知られる島らしくて、古いロックファンだと、マウンテンのアルバム「ナンタケット・スレイライド」が思い浮かびますが、それは関係のない話。年上・人妻モノの流れですか。ううむ。素晴らしい。
憲武●人妻モノですね。設定はニューイングランドの沖合のナンタケット島ということになってますが、実際のロケ地はカリフォルニアだったようです。ミシェル・ルグランは、2019年の1月に亡くなっていますが、その年の3月に天気さんが「The Typewriter」という曲を取り上げています(第619号) 。読み返してみたんですが、その時、僕はこの曲を挙げているんですね。すっかり忘れてました。泣いちゃう、とか言ってたのに。
天気●そうそう、そうでした。「The Typewriter」はルグランの筆ではなかったのですが(コメント欄で教えていただきました)。
憲武●その時も言及されてたんですが、「ノスタルジー」というのが、ミシェル・ルグランの音楽の、いわゆるですね、うーん、どおでしょう、一つのですね、キーワード、鍵の言葉になってくると思うんですよ。
天気●なるほど。そういえば、映画というもの、ノスタルジー、というか、人の記憶を光と音で構成しているといえたりして。
憲武●不在の光景ですよ。この曲のミシェル・ルグランのピアノは、控えめですが随所に美しく、それだけに印象的な演奏になってます。
天気●控えめに綺麗に鳴っていますね。サキソフォンとストリングス中心のアレンジに、ちょこっと添える柴漬けみたいなピアノです。
憲武●映画と主題曲がワンセットになって記憶されていた時代ってありましたけど、最近は少ないように感じますね。
天気●印象に残るのはシリーズ物ですかね、スター・ウォーズのテーマとか、ミッション・インポシブルのテーマとか。単発で劇中音楽とセットというのは、なるほど、あまり思い浮かびませんね。
憲武●そもそも夏自体にノスタルジーが横溢してますからね。さまざまのこと思い出すんですよ。という訳で「おもいでの夏」でした。
(最終回まで、あと747夜)
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