2022-12-11

【中嶋憲武✕西原天気の音楽千夜一夜】佐良直美「私の好きなもの」

【中嶋憲武✕西原天気の音楽千夜一夜】
佐良直美「私の好きなもの」


憲武●歌謡曲特集です。今回も僕らのロマンティック・リビドー、永六輔作詞の作品に触れてみようかと思います。佐良直美の「私の好きなもの」。

 

憲武●という訳で「私の好きなもの」(1967年)ですね。作詞永六輔、作曲いずみたくです。ボサ・ノバです。あまりヒットはしなかったようで、リアルタイムでこの曲覚えてないんです。土曜ワイドラジオ東京か、永六輔その新世界か、であとから聴いて、いいなあと思った次第です。

天気●はい、この曲、ぜんぜん知らない。聴いて、ああ、これか、というのでもなかったです。

憲武●改めて聴いてみて、上手いですね。佐良直美って。家柄の良さが出てる感じします。デビュー当時、「世界は二人のために」が毎日流れてたような気がするんですが、子供ながらに佐良直美にフェミニンを感じなかったので、あまり好きではなかったんです。

天気●フェミニンとは真逆の路線だったですから。

憲武●それが大学生の頃でしょうか、「いいじゃないの幸せならば」がラジオでかかって、その色っぽさにゾクゾク来たんです。この曲は岩谷時子の怖い怖い詞なんですけど、今日日の言葉で言うと「沼る」とか「沼られる」とか、そういう世界が歌われていて、暗いエロスとでも言うんでしょうか。そんなものを感じたんです。岩谷時子、怖いなって。

天気●ハタチかそこらで闇を覗いちゃったわけですね。この曲は知ってます。ヒットしましたね。「幸せならいいんじゃないの?」と言うんだけど、それが反語的に響くくらい、暗い。ぜんぜん幸せそうじゃない。たしかに、沼感、ずぶずぶとアオミドロ感があります。

憲武●「私の好きなもの」の世界は打って変わって、カラッとしていて、洒落てますね。名詞を並べて、詞が構成されてて、イメージがパッパっと変わっていきます。名詞を並べた歌詞というと、五木ひろしの「よこはまたそがれ」(1971)がありますが、この曲を参考にしたんでしょうかね。知りませんけど。

天気●いや、それこそ、『サウンド・オブ・ミュージック』(1959年)の「My Favorite Things」でしょう?

憲武●おお、ありましたね。気がつきませんでした。ラジオで「私の好きなもの」を知って、この曲聴きたさに「忘れ得ぬ名唱・佐良直美」というアルバムを購入してしまいました。二つのヒット曲(世界は二人のために、いいじゃないの幸せならば)に比べると、軽い感触で、そこが垢抜けてる感じしてよかったんです。フルートが効いています。

天気●ボサノバって、20世紀の大発明だと思いますよ。

憲武●ブラジル人は偉大です。先のアルバムのライナーノーツによると、現在は栃木県那須市で、家庭犬のしつけ教室「アニマルファンスィアーズクラブ(AFC)」を主催とあります。実業家になってしまったんですね。たまにはライブで聴いてみたいものです。 


(最終回まで、あと731夜)

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