【中嶋憲武✕西原天気の音楽千夜一夜】
高橋幸宏「サヨナラ」
憲武●前回は1月10日に亡くなったジェフ・ベック追悼の夜でしたが、今回は1月11日に亡くなった高橋幸宏を追悼したいと思います。やはりキャリアの長い人ですので、どの時代のどの曲にしようか、すごく悩みましたが好きな曲で、高橋幸宏「サヨナラ」。
憲武●昨年の夏、こちらで「Bijin-Kyoushi At The Swimming school」を取り上げて、 「全快をお祈りします」と結びましたが、遂に帰らぬ人となってしまいました。なんかまだ信じられない思いと、喪失感が同居したような気持ちです。
天気●日本のロック音楽の初期から活躍している人たちが、どんどん鬼籍に入っていくんですね。
憲武●そうなんです。前の列が空いたので、僕も鬼籍へ向かって一歩踏み出す感じですね。曲の冒頭の高橋幸宏のナレーションは、ちょっと聞き取りにくいので、なんて言っているかというと、「本当に明るいいい天気/強い日ざしが二人の陰を残す」と言ってます。これは中原中也の未完詩篇の中の「別離」という詩をベースにしているようです。長い詩なんですが、冒頭の2連め、「さよなら、さよなら!/こんなに良いお天気の日に/お別れしてゆくのかと思ふとほんとに辛い/こんなに良いお天気の日に」が、そうです。最初聴いた時は、それは知らないで聴いてたんですが、なんか大正ロマンと言ってしまっていいのか、そんな雰囲気を感じたんです。その時は中也のその詩も知らなかったんですが。
天気●ひとむかし前の、というか、懐かしい感じの感傷を感じたわけですね。
憲武●はい。ひと夏の感傷ですね。この曲は、1982年発表の「what me worry? ボク、大丈夫?」に収録されてます。この映像は1983年のライブで、当時、高橋幸宏はアルバムを発表するとツアーをしていたんです。このツアーは、アルバム「薔薇色の明日」を発表後のもので、この日は箱根だったようです。ゲストの細野晴臣がベース弾いてる曲もあります。僕も渋谷公会堂へ観にいきました。
天気●ポップでいて、いい感じに締まりのある音。いいライブですね。
憲武●サポート陣が豪華ですからね。1983年という年は高橋幸宏にとっては、大忙しの年だったと思います。ソロ活動としては、アルバム発表、それに伴うツアー、ニッポン放送「高橋幸宏のオールナイト・ニッポン」の放送開始、YMOとしてはアルバム「浮気なぼくら」の発表と、先行シングル「君に胸キュン」のヒットによるテレビ出演、そして年末の散開ツアー、これも観に行きました、と、休む間もなかったのではないかと。
天気●ああ、「君に胸キュン」。そんなヒット曲がありましたね。
憲武●カネボウ化粧品のキャンペーンソングでした。「what me worry?」は割と何回も聴いてるアルバムです。アルバムの中の、この「サヨナラ」と「flashback」と「disposable love」は、僕の中では3部作になってるんです。勝手にストーリーを組み立てたりしてるんです。なんか書けそうな気もしたりして。
天気●聴く側で、個人のアタマの中で編集される音楽って、ありますよね。
憲武●洋邦問わずありますね。昨年9月の音楽活動50周年記念ライブのセットリストを眺めてると、込み上げてくるものがありますね。うーん、本当にさよならなんですねえ。
(最終回まで、あと725夜)
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