【中嶋憲武×西原天気の音楽千夜一夜】
トム・ウェイツ「Take It With Me」
天気●トム・ウェイツという人、たくさん聴いてきたわけじゃないんですが、聴くと、必ず、しっとりと感傷的な気分に浸れる歌手です。その中でも、私が思う、一等しっとりなれる曲を。もう秋ですしね。まだ暑いけど。
天気●どんより曇ったような、ロウファイ、といっていいのか、ピアノの音をバックに、聞き手ととても近い距離、耳元で唸ってくれるような歌唱です。
憲武●この頃になるとボーカル・スタイルが、さらにオリジナル度を増していますね。
天気●そう。デビューの頃の声は、いま聴くと、若くて、あんまりつぶれてない。どんどんつぶれていくんですよね、声が。さて、この曲、後半に入ってくるウッドベースもずしんと重く、いい感じです。
憲武●音数が少ないので、なおさらですね。
天気●音の編成は、ほんとシンプル。でも、これがトム・ウェイツの唄には合ってる。バンド・サウンドやオーケストラよりも、それこそパブの小さなステージで歌ってるみたいなのが合う。
憲武●最初に聴いたアルバムは、高校生の頃に聴いた「土曜日の夜」(1974年)です。ジャケットとタイトルに惹かれました。その頃よりぐっとシンプルに、ある意味洗練されてます。
天気●2枚目ですね。私は1枚目の『Closing Time』(1973年)が印象的です。まわりの洋楽好きの間で、話題になったように覚えています。「Take It With Me」の内容は、別れの歌のようです。例によって英語はよくわかんないですが、これでお別れというとき、何を持っていくか、海のような君の瞳の青を持っていく、みたいな内容に思いました。おセンチです。
憲武●トム・ウエイツといえばその詩の世界も、興味深いところです。
天気●この曲、『Mule Variations』(1999年)という12枚目のアルバムに入ってるんですが、これ、名盤と思っていて、ちょっと落ち着きたいときに聴いています。元気なのもいいけど、こういう憔悴しきったようなのもね。
(最終回まで、あと692夜)
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