【句集を読む】
特別の一瞬
茅根知子『赤い金魚』の一句
西原天気
溶接の火花に浮かぶかまどうま 茅根知子
溶接の場所は地べた(土かコンクリートかはわかないが)。きっと屋根がある。溶接の経験があるわけでもなく詳しくもないので、あくまで想像。
屋根のある地べたという意味で、そこは家と外のあいだのような場所だと思う。
かまどうまは、秋の虫のなかでは、比較的、家や家の近くで目にする虫。だから、上記のような場所は、とても似つかわしい。
溶接の火花が地面へと落ちる、その刹那、かまどうまを照らし出す。状況は特別でもなんでもないけれど、その瞬間は、やはり特別に思える。とりたてて美しいものではなくとも、特別の一瞬。
茅根知子『赤い金魚』(2021年9月/本阿弥書店)≫版元ウェブサイト
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ところで、余談。
「赤い金魚」という句集タイトルを見たとき、ちょっと自分にはつまずく感じがあった。金魚をわざわざ「赤い」と限定したところに反応したのだけれど、考ええてみれば、黒い金魚もいる。それになにより名称には「金」とある。金魚=赤、という繰り返されて刷り込まれた定式に、あらためて思い当たったのでした。「赤い金魚」というタイトルも、私には意義があった、ということだ。
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