【中嶋憲武×西原天気の音楽千夜一夜】
椎名林檎「Yer Blues」
憲武●ビートルズのカヴァー特集第4弾です。椎名林檎「Yer Blues」。
憲武●この曲は「唄ひ手冥利?其の壱?(2002)」に収録されてます。二枚組カヴァーアルバムです。其の壱と銘打たれてますが、其の弐は出てないような気がします。この二枚組、「Yer blues」の入ってる方ばっかり聴いてて、あと一枚は、何が入っていたか、あんまり覚えてません。
天気●こんなアルバムがあるんですね。曲数が多くて、選曲に幅がある。
憲武●「Yer Blues」を選曲したのは、椎名林檎に合っているといいますか、「ぽい」といいますか。歌詞もずっと「寂しい、死にたい」と言ってる内容なので、歌詞も椎名林檎的と言えないこともないです。
天気●これはまた、いいとこ、選んだなあ、というかんじです。ビートルズから、よりによって「Yer Blues」。
憲武●アレンジは、基本的にオリジナルに忠実ですね。後半ちょっとアンビエント風になるくらいで。
天気●2分47秒あたりからですね。それまでブルーノートでごりごり演ってたのを、長調の響きでソフトになる。キーは同じなので(E)、転調ではないんですが、転調っぽい効果が絶大です。この部分、不思議ですよね。原曲・原トラックにはまったくない要素。それで、程なく元のブルースに戻る。
憲武●ボーカルは、息を吸い込むブレスで始まりますね。椎名林檎って「無罪モラトリアム」「勝訴ストリップ」「加爾基 精液 栗ノ花」「三文ゴシップ」、そして「教育」「大人」「娯楽」(以上三つ「東京事変」)くらいしか聴いてないですが、ブレスで始まる曲って、結構あると思います。これを聴いた時も、「おっ、やってるな」と思いました。
天気●東京事変のアルバム『大人(アダルト)』は一時期よく聴きました。大好きなバンドです。で、そのブレス始まりって、意識したことはなかったですが、なるほどです。
憲武●椎名林檎の暴力的で官能的な感じって、結構好きで、このカヴァーにもそれがよく出てて、オリジナルはブルースの感じはなくて、どちらかというとロックだと思いますが、どうですか?
天気●ブルースの感じ、ないですか? 音の響きが憲武さんの思うブルースと違うんですかね? これ、ごりごりにブルースですよ。始まりの8分の12拍子はブルースによくあるリズムだし、途中のシャッフル、跳ねる感じのリズムもそう。それに、なにより、長調(メジャー)のコード(和音)に乗っかるギターが全篇ブルーノート(ブルース特有の音階)。くわえるに、中盤(1分25秒あたりから)、小節アタマのブレークをヴォーカルが追いかける処理とか、ブルース由来の材料だらけです。
憲武●そうなんですか。例えばマディ・ウォーターズの「マニッシュ・ボーイ」ですね。あの曲が僕のイメージするブルースなんです。
天気●ああ、でもね、これと「Yer Blues」、遠くない。近いですよ。つまり、曲の印象って、聴く人によって違うってことなんですね。
憲武●ううむ、なるほど。ちょっとこれからブルースをいろいろ聴いてみます。この曲の椎名林檎は、ヘヴィかつダークでジョン・レノン丸出しみたいな曲を、よくぞ歌い切ったと思います。
天気●シャウト系の曲って、ジョン・レノンの魅力の大きな柱だと思うんですが、例えば他に「ドント・レット・ミー・ダウン」とか。ヒステリックって言っていいのかどうか、エキセントリックって言っていいのかどうか。ダークさもわかります。そのあたりの味わいが椎名林檎に合ってると思います。
憲武●というわけで椎名林檎のカヴァーで「Yer Blues」でしたが、「Yer」って、60年代のスラングで「Your」ってことらしいですね、僕はやはり椎名林檎はファーストの「無罪モラトリアム」が好きです。
(最終回まで、あと655夜)
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