【週俳1月の俳句を読む】
途切れることなく
知念ひなた「風の街を住む」を読む
清水かおり
カメラロールのほぼ花ふぶきあとはあなた 知念ひなた(以下同)
あおぞらにまみれたがって風車
アザレアのしなびるパドックを見てた
季節の変移に溶け込む句群には、柔らかな感性が途切れることなく漂っている。
カメラロールの中の「あなた」への想いが溢れていくのかと読み始めると少し違った。「あなた」は作者の観念を受け止める容れ物の役目を持っているようだ。
風車と主体が同じ位相で書かれ、四季を軸にしたポエティックな展開をみせている。
面白いと感じたのは離れたり近づいたりする視点の感覚を覚えたことだ。青空を求めてからからと回る風車、夜の海や春の終わりのパドックを見ている風車など、風の街での営みを記述するところから、深層へ心が動いていく過程をしなやかに表現し、一見、感傷であるような書き方も作者の特徴なのだろうか。社会や思想など関係のないところに居るふうに見せて、「しなびるパドック」「轢かれたひまわり」「暑い社旗」「花火の屑」「果肉きよらか」とコアな言葉が並ぶ。
自転車に轢かれたひまわりがきれい
檸檬水くちびるが皮膚めいて来る
踏んだものはたぶん花火の屑だった
社会と主体の接点が少しずつ明らかになっていく。身体的な句語を通過させることで、読者は共鳴し易い。
ゆうぐれが都市に馴染んで暑い社旗
句群の中で特に惹かれた。ここに至って、鮮やかに主体が現れた一句だと感じる。
生命しんどい冬のはじめの風車
ここから、更に一人称に帰着する表現に変わっていく。
憂国忌クリームパンが生ぬるい
記憶より明るい書店日記買う
ぼたん雪ロボットに支配されたい
「憂国忌」を句に詠んだ作者の思考の欠片が「支配されたい」という結語に、きらきらと降っているようだった。
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