豆の木賞応募
まばたき 近 恵
初秋のひかり集めているおでこ
白桃に触れた指先から老いる
鬼灯を剥けば肉体に空洞
膨らんだ桔梗朝を待っている
流星を見たくてポニーテール解く
天の川闇よりも濃い森影を
長き夜の人形は瞬きをせず
生きるのも死ぬも有料秋風鈴
残る蝉川幅は満たされている
燕帰る河原の石を硬くして
草の花杭をうつたび振る腕
小鳥来る綿百パーセントの下着
かさぶたを無理やり剥いで今日の月
虫の夜の電柱ことごとく斜め
秋の星身を乗り出して吸う煙草
ポケットの塵を丸めて地虫鳴く
檸檬の輪切り透かして誰の声も無い
稔り田に与える風を飼う資格
野胡桃のたくさん降る日なら泣ける
鈴の鳴るように秋の虹は消えて
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2012-12-23
ひとり落選展×4テキスト 近恵 まばたき
ひとり落選展×4テキスト 近恵 水海月
炎環賞応募(一次予選通過)
水海月 近 恵
初夏の魚眼レンズの中に海
かさぶたに触れれば硬い守宮の夜
羽蟻来るテレビから夜浸み出して
泣きそうな水海月にも影あるか
森を夜へ深く沈めて夏の星
雲の峰力まかせに紐を引く
片足の飛び出している夏座敷
寂しさは押し込められてラムネ瓶
一箱の煙草吸い終わるまで夏至
琉金の尾鰭めまいをつれて来る
袋から袋へ移し兜虫
雨音の高く夏痩もて余す
塗り箸のてっぺん剥げて遠花火
水無月のお櫃にご飯少しだけ
西日張り付き水槽に足す酸素
梅雨明のむしってしまいたい黒子
その指は日盛りの穴ふさぐため
花さぼてん上を向くとき出る涙
かき氷つつく家族がおわるまで
ペットボトルに砂の詰っている晩夏
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ひとり落選展×4テキスト 近恵 夕空へ
現代俳句新人賞応募(予選通過)
夕空へ 近 恵
片方の胸に心臓夏はじめ
雨催かたっぱしから薔薇をかぐ
カレー屋の前へ戻ってくる薄暑
若葉風白線の外側に足
短夜の鳥籠に飼うハムスター
青梅が太る雨の香吸いつくし
夏山へ入るすっきりしないまま
ひとごとのようにゼリーの融けている
素肌へと塗り込められている炎暑
一切をこっぱみじんに滝壺は
深呼吸して虫の夜へはいりこむ
西瓜切る太陽に見つかる前に
晴れの日は膨れると決め芒原
秋風へ旅の鞄の口ひらく
轟々と体内の水菊人形
行く秋の骨格は自由にならず
小春日の見下ろしている観覧車
金網がぎしと広がり冬の月
梟よ石釜は冷え切っている
大寒のからだから紐抜き取られ
額から突っ込んでいく深雪晴
ストーブの前のお手玉よく落とす
手品師のウサギは消えて春隣
少しだけ噛んで風船ふくらます
号令の声が小さい春の土
春の波手に乗る程のものを捨て
白木蓮より夕空へ放たれる
春の汗知らない街を映すミラー
雨音の籠もった躰暮の春
春昼の影を静かに切り離す
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ひとり落選展×4テキスト 近恵 松の脂
角川賞応募作品(予選通過)
松の脂 近 恵
絵具箱からあふれ出て夏はじめ
つぎつぎと紐をほどいている立夏
モーターの音が近付く夏の霧
蛇の衣ならば平気で振りまわす
くっきりと肉体の溝夕立来る
草笛よ泣きたくて足りない涙
袋から出せば金魚は小さくて
青嵐表面積が増えている
発条ひとつ飛び出している夏の雨
夏の星空瓶につまずいている
土壁の藁の飛び出て梅雨の明
白シャツに袖を通してひとりきり
プールへと下りて雨から水になる
風死んでぎらぎらと来る路線バス
七夕の言葉をちりばめた天井
梨ひとつ置くカーテンの外に闇
リズム良く畳む洋服涼新た
八月の真顔のような壁の染み
盆棚の部屋馬乗りにされている
小鳥来るすぐにやぶれるセロハン紙
コンセント抜いて満月光らせる
しっとりと褪せてとうもろこしの鬚
青空を少しずらして雁が来る
寂しくて焦げ付いている新秋刀魚
露の世の角にぶつかってばかりいる
楽隊を大きく逸れて冬の川
シーソーの片側に冬晴の町
靴の泥そのままにして熊手買う
冬の水から包丁を引き抜いて
一章を読んで本屋に着膨れる
天井にポスターのある玉子酒
数え日のはみ出しているシャツの裾
かまくらの中で家族のようにいる
枯木星今日が昨日になるところ
雪催こっそり撫でる松の脂
音の無い手紙が満ちている真冬
氷柱から空の破片が落ちてくる
雪の声透明になっている躰
靴べらはへらりと抜けて春の風
手回しオルガン草の芽に日が当たる
がぽがぽと市場から人来て春昼
一本の田打桜の浮きあがる
雨音の始まっている春の夢
菜の花の中に隠れていて見えず
かげろうのまま自転車が近くなる
弟にしたい男と八重桜
背中から他人になって汐干狩
明日なら逃水を汲めるだろうか
床の間の空の花瓶よ夏隣
紙風船三百六十度晴れて
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