2009-03-08

〔週俳2月の俳句を読む〕さいばら天気 愛すべき先行句

〔週俳2月の俳句を読む〕
さいばら天気
愛すべき先行句


絵日記に車こみあふ梅の花  彌榮浩樹

マイカーは死語ですか。おとうさんが「さあ、行くぞ」と、ほんとに行きたいのか、いやいやながらの家族サービスなのか、休日の行楽地へと家族揃って出かける。大渋滞のなか、みな気まずい。日記には行楽地ではなく「車こみあふ」絵が描かれる。

「梅の花」は、渋滞の道ばたでも目的地でもなく、家の近くの庭にひらいた梅。

 

カフカかの虫の遊びをせむといふ  関 悦史

この句の掲載された第95号の次の第96号で、なんという偶然でしょう、本歌(翁かの桃の遊びをせむと言ふ・中村苑子)についての松下カロさんの記事が掲載されました。

そこに引かれた中村苑子のことば、「この句が私の中で古びていないと前に書いたが、それはこの句が何の意味も持たないからだと思う。(『俳句自在』)」。

かくしてこの句は音楽でいうところのスタンダード曲となり、さまざまな演奏(カヴァヴァージョン)を許容する。愛すべき先行句を遊ぶことがさかんになれば、俳句はもっと風通しのよい文芸になる気がします。

 

山頂の落ちさうな岩春立ちぬ  島田牙城

「岩」というボリュームと重量をもった物体が、この句のなかに据わっていながら、「落ちさう」の効果でしょう、あるいは「岩」と指さされながらも空を見てしまう効果でしょう、春の空気のような浮遊感です。

あの「春風駘蕩」の「駘蕩」。あれです。

この句のあとでは、何が起ころうと、ぜんぶアリ。どんな椿事も、「ああ、春の椿事ね」と微笑みながら受け入れることができます。

 

試験近しみかんを剥くときに力   越智友亮

入学試験前とみかんは、付き物です。夏休みとスイカ、春休みと水栽培の球根などと同じに付き物。「力」は青春です。宅建や中小企業診断士の試験前に力を入れて蜜柑を剥たりなどしない。これはまぶしいほどに尊い青春性そのものです。

 

成人の日のちやんぽん屋ちやんぽん屋   高崎壮太

成人の日というのは奇妙な記念日だと思います。20歳になった誕生日の感慨はよく憶えていますが(東京・国分寺の四畳半のアパートでひとり)、「成人の日」の感慨なんて、みなさん、あるんでしょうか。女の子なら着物を着たり?

この人は、その日に、「ちやんぽん屋ちやんぽん屋」とひとりごちています。ちやんぽん屋が二軒並んでいる可能性はゼロに近いので、この「ちやんぽん屋」は、この人のことば、この人の想念の世界に存するものなのでしょう。この独語は、そうとうにおかしいです。

 

佐藤先生僕の消しゴム嗅いで去る   佐藤文香

この句を読んですぐに消しゴムを嗅いでみました。机にあるのはステッドラーの例の青い消しゴムです。鼻と消しゴムが触れんばかりに、嗅いでみた。

果たして、まったく匂わない。時間が経って古くなってしまったからでしょうか。ちょっとがっかりしました。

でも、たしかに匂いがしたように思います。ゴムの匂い? それはそうなのでしょうが、もうすこしニュアンスを含んだ匂い。小学校の頃は、フルーツの匂いのする消しゴムを使っている女子もいた気がしますが、それとは違う。

さて、掲句。佐藤先生は、嗅いでから、何も言わずに去っていったようです。嗅いで、匂ったのか、何の匂いなのかも不明のまま。

ここからは余興(これまでも余興のようなもんですが)

苗字が同じというだけ別人ですが(当たり前だ)、あがた森魚「佐藤敬子先生はザンコクな人ですけど」というアルバムを思い出さずにはいられません。

1曲目はこのように始まります。

  ♪佐藤敬子先生はザンコクな人ですけど
  佐藤敬子先生の冒険ものがたりなのです
  夏のテエブルで
  とおい灯台をみつめてました♪

ついでに曲目リストも挙げておきます。

1. 佐藤敬子先生はザンコクな人ですけど
2. 山羊のミルクは獣くさいオイラの願いは照れくさい
3. 九州のおばあさん
4. 球根観察日記
5. MEZCAL(はじめに歌ありて)(AZTECA PARK REMIX)
6. バルカンの裏庭に転げだせ
7. 億光年の岩で転げてる
8. 風立ちぬ
9. 百合のお目覚め珊瑚の庭で
10. 太陽コロゲテ46億年


越智友亮 東京 6句  ≫読む
高崎壮太 ちやんぽん屋 6句 ≫読む
佐藤文香 ケーコーペン 9句  ≫見る
島田牙城 靴下の匂ひ  10句 ≫読む
彌榮浩樹  鶏  10句 ≫読む
関悦史 60億本の回転する曲がった棒 10句 ≫読む
川口真理 雛祭  10句 ≫読む
如月真菜 女正月 10句 ≫読む
岡田佳奈 きたよ 10句 ≫読む

1 コメント:

牙城 さんのコメント...

先週・今週とたくさんのコメントをいただいて、とっても幸せです。作品を発表するなら週俳ですね。このスピード感は何にも換えがたい。阿部完市さん追悼特集にしても、どこよりも早いし内容各自(僕のはいいとして)充実で読み応えがあります。今後総合(商業)誌に追悼文を書く方必読ですよね。書く人を知っている人は教えてあげるといいと思います。
編集スタッフに、(最敬礼)感謝……。