2012-09-16

【週俳8月の俳句を読む】「鈴木」ではわかってくれない 久留島元

【週俳8月の俳句を読む】

「鈴木」ではわかってくれない

久留島 元



比較的若手に執筆機会の多い週刊俳句でも、8月は特に若手の並んだ月であったかと思うが、作者の年齢と作品の年齢とが違うのは当たり前で、まさしく次代の句とは何なんだろうかとは普段勝手に自分が考えているテーマ。


食パンの中に空洞朝ぐもり  谷口摩耶

朝である。通勤だろうか通学だろうか、朝の支度を調え、テレビで天気予報などをチェックしながら、パンを食べていて、ささやかな発見したのである。損した、と思っているのだろうか。単純に見つけたことをおもしろがっているのだろうか。「朝ぐもり」の曖昧な明るさが、ささやかすぎる発見にちょうどいい。


扇風機どこかの鈴木から電話  福田若之

あざとすぎる句群のなかに紛れ込んだ、ぶっきらぼうな句調にひかれた。

なんという雑な把握であるか。「鈴木」ではわかってくれないのである。固有名詞であるのに固有性が希薄という奇妙さ。鈴木は関東圏に多い姓だが、私の携帯にも2人「鈴木」が登録されている。携帯の着信欄で「鈴木」とだけ表示されたら「誰だよ」と思うだろう。誰だよ、暑いんだよ、電話うるさいよ、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ~

全国の鈴木さん、すみません。


父逝きし夜や日本中揚花火  前北かおる

「家族の死」から人目にさらしうる「句」を立ち上げるのはよほどの技量が必要ではないかと思う。「悲しい」と言わねば人非人のような気もしてくるのだが、掲句は、冷静に、世間に対して諷刺でも批判でもなく、しかしそれと言わず感傷が出ている。「日本中」の語にすべてが凝縮されていると思う。


鷲鼻の国に来てゐる涼しさよ  松本てふこ

先日、某ヨーロッパの某国から来た若い女性に出会って、身長もだいぶ相手のほうが高かったのだが、なによりその鼻梁の高さに驚いた。彼女は全然鷲鼻ではなく、ただ高々と美しく、万事にチャーミングだったのであるが、私は一体西洋人とは何故あんな高い鼻を持っているのであろうかとつまらないことばかり考えていた。

掲句は衒いのない海外詠。「涼しさ」は俳人以外は季語と思わない季語のひとつで、それも季語体系を離れた客地としては相応しかろうかと思う。



谷口摩耶 蜥蜴 10句  ≫読む
福田若之 さよなら、二十世紀。さよなら。 30句
  ≫読む  ≫テキスト版(+2句)
前北かおる 深悼 津垣武男 10句 ≫読む
村越 敦 いきなりに 10句 ≫読む
押野 裕 爽やかに 10句 ≫読む
松本てふこ 帰社セズ 25句 ≫読む
石原 明 人類忌 10句 ≫読む


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