2012-09-09

【週俳8月の俳句を読む】読後の景 青木空知

【週俳8月の俳句を読む】
読後の景

青木空知



滑走路なりしか夾竹桃の白   谷口摩耶 

暑い風景だ。滑走路だったらしい場所…軍機を想わせる。そして夾竹桃は白い。「白の夾竹桃」ではなく「夾竹桃の白」と止めたのは、その場所への作者のこだわりのように読める。読後の景が白い。

父逝きし夜や日本中揚花火   前北かおる

父親を亡くした、その気持ちは深く沈んでいるのだろうが、折しも花火が高く揚がる夜であった。死者の霊を慰める為のものでもある打ち上げ花火が、作者の顔を一瞬明るく照らしたかもしれない。「日本中」が切ない。

薔薇咲いて惑星の終はりは雨か   村越 敦

実景として薔薇と雨があったのだろうか。雨に濡れた薔薇を見ていて、この星の最期が浮かんだのだろうか。「惑星の終はり」が唐突でないのは薔薇と雨というモノの力か。

抽斗を引くやさささと朝の蜘蛛   押野 裕

一読、景が分かる。いい景だ。朝なのも清潔な感じがあっていい。句の中ほどで続くひらがな「くやさささと」が蜘蛛の長い脚のようで楽しい。

向日葵を蟻降りてくる怒つてゐる
  石原 明

「降りてくる」のは蟻で、「怒つてゐる」のは作者だと読む。向日葵が咲く日、作者は何かに怒っている。暑い。蟻はただ向日葵を降りてくるだけ。だが何故か、蟻も怒っているような読後感がある。


谷口摩耶 蜥蜴 10句  ≫読む
福田若之 さよなら、二十世紀。さよなら。 30句
  ≫読む  ≫テキスト版(+2句)
前北かおる 深悼 津垣武男 10句 ≫読む
村越 敦 いきなりに 10句 ≫読む
押野 裕 爽やかに 10句 ≫読む
松本てふこ 帰社セズ 25句 ≫読む
石原 明 人類忌 10句 ≫読む


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